石田さん(仮)の思いで

かつて、知り合いに石田さん(仮)という、とくにかっこいいとかではないんだけど、でも、とてもモテる人がいました。わたしも結構その人のこと好きで、あれなんでだったのかなぁとか考えてみたところ、たぶんきっと話してて安心するからなんだと結論しました。
それはつまり、わりとくるものこばまずに見えるということでもあって、石田さん(仮)は、誰の好意(色恋に限定せず)であっても、うれしそうに受け取り、さりげなく受け流していった。
困ったり、嫌がったり、笑ったりしない。これはなかなかできることではないなと思います。まあ、もしかしたら、石田さん(仮)をあまりよく思ってないひともいたのかもしれないけれど、石田さん(仮)自身が(少々の愚痴は抜きにして)誰かを悪くいっているのを、聞いたことはない。
だからみな、巡礼のごとく、石田さん(仮)に好意を捧げていったのではないかなと思います。好きになって、大丈夫な人だった。いつも笑ってた。
でも、石田さん(仮)自身は、誰かのこと好きになったりするのかな? ていうことを考えてみると、わからない。それを考えたとき、はじめて届かない部分を思い知らされて、こう、急流に飲み込まれていくわけなのだけど。
もしかしたら、石田さん(仮)にとって、あの状況は、居心地の良いものではなかったのかもしれない。でも、あの、好意に対して単純に笑顔を返してもらえるという瞬間は、たとえば幼いころ、お母さんから受け取った褒め言葉のようなうれしさがあった。
そのことを考えると、ちょっと泣きそうになる。当時の自分は、無神経だったかもしれない。けど、石田さん(仮)のこと考えると、いつもすこし、勇気づけられる。そのこといえたらよかったと思った。