童貞。をプロデュース1&2

さて帰るか、と思ったところで「近所でお祭りやってるけどいかない?」と同僚に誘われて、いそいそとついていく。今の会社はあんまり飲み会とかやらないのだけど、べつにだからといって仲悪いわけでもなく、いいわけでもない、この生温い感じはわりと気に入っていて、でもこうして飲めば、なかなかに楽しかったりもするから、私も調子にのってずいぶんと飲んでしまった。ビール一杯200円という破格で、食べ物はなぜかもらい放題。買おうとしてもくれる。なのであっというまになくなっていた。不思議なお祭りだった。いかにも「良いパパ」で上品なOさんが、ネクタイを外し、だんだんとだらしなくなっていく様は見応えがあったし、愚痴るネタも、さらさらと流れていく程度のもので、まあ、まあね、なんてビールをおかわりしていた。
するといつのまにか屋台が撤収しはじめていて、時計を見ると20:30になっていた。今日は21時からの「童貞。をプロデュース」を見にいくつもりだったから、少し急いで、別れ際「今日は何の映画見るの?」と聞かれたのに窮し「ドキュメンタリーです!」といって手を振る。そしてどうにか有楽町線に乗り込む。ああ、よってんなわたし、とか思いながら、どうにか21時すぎにロサへたどり着くと、幸いまだ予告編だった。満員御礼なので通路に座り込んで、見る。
2のほうはガンダーラ映画祭の追加上映で見ていたのだけど、1を見るのははじめて。

童貞。をプロデュース

監督:松江哲明
1の主人公、加賀君は、2の冒頭に出てくるのでその顔には見覚えがあった。基本的に、主人公となる人物にカメラを持たせ、生活を記録させる手法は2と同じだったのだけど、そこにアクセントを加えるのが片想いの相手への告白、という目的を作ることと、それに向けてAV製作現場へスチール男優(?)として参加するというイベントだった。「風俗とかAVはちょっと汚い感イメージが…」なんていったり、AV制作現場につれてかれてなお、なお、それでもかってところとか、酔った勢いでカメラに向かって想いのたけを語ったりとか、うん、まあ、わからなくもない。このわからなくもなさが、面白いとこなんだと思う。場内に溢れる笑いは、加賀君を通り越して、いつかの自分に向けられているのではないか。というか加賀くんの言動はかなり少女漫画みたいだな、云々。
そして映画中の飲み会で加賀君が歌う歌が、ひどいんだけど、すごくて、映画のあとに峯田さんがそれを歌う映像が流れて、なんかもうすごい。従属させたいという欲望と負け戦みたいな弱腰の触れ幅に、正直なところぐっときた。まあ、あの歌い出しはやっぱひどいと思うけど。

童貞。をプロデュース2 ビューティフルドリーマー

以前見たもの(id:ichinics:20070628:p1)とはずいぶん印象が違っていて驚いた。というのも以前のバージョンには入ってなかった場面がいろいろ盛り込まれていたからで、しかもそれがかなりの核になっていたからだ。あのとき私は「さわやかだ」という感想を書いたけれど、最初にみたのがこの版だったらそういう感想はもたなかったと思う。
こちらの主人公、梅澤くんの童貞さは、加賀くんの童貞さとは違う。もちろん人それぞれなんだろうけど、加賀くんの場合には、気持ちと頭が寄り添わない「不器用さ」みたいなものを感じたのに対して、梅澤くんの場合はどことなく、これは無関心なだけなのではないかと思う。アイドルのスクラップをつくることが趣味で、そのためにゴミ収集の仕事につき休日はブックオフを巡る、彼の生活は充足して見えるし、その情熱の当てがすでにあって、女性に向けられてるわけではないんだなとか、思う。かつて好きだった女の子とデートする場面で「映画の見過ぎだよ」といわれる意味がやっとわかったような気が、する。
映画の後に、今日舞台挨拶にくることができなかった梅澤くんの映像が流れたのだけど、2の冒頭ですっかり女なれしてしまったかに見える加賀くんの変ぼうぶりとはまた違う、たぶん「演技」の中でこそ自由でいられる人なんではないかとか思ってしまうような自然さがあって、なんていうか人間て面白いなと思う。
次はなんとユーロスペースで上映されることが決まったそうです。
舞台挨拶で客席を見て、言葉につまる監督の姿を見て、ああ今日見にきてよかったなと思いました。