帰りたい

今朝はJRがただ乗りし放題らしい(曲解)、という話題を通勤途中にモバツイで見て、不意に思いだしたのが 7年近く前、井の頭公園にいた夜のことだった。
春で、たぶん、吉祥寺で買い物などした帰り道だったのだと思う。ちょっと夜桜でも見て行く? なんて具合に、近くのコンビニでビールを買い、ベンチに座って、……… たしか引っ越しの話とか、した。私は引っ越しの手伝いをしていて、だから、一杯飲んだらかえって続きやろうって感じで、ふらっと公園に寄ったのだ。
桜は終わりかけだったけど、あたりにはちらほら宴会をしている人もいた。そして「いるねえ」なんてぐるりと顔を巡らせたとき、ふと、近づいてくる人影があることに気がついた。
あちらのシートから出発するところを見たので、あちらのシートの人だと思ったのだけど、別のシートへも顔をだし、また別の、とジグザグに進んで私のいるベンチの方まできて、やっと、ホームレスの人なのかな、と思った。でも、ワイシャツを着ているせいか、しばらく家に帰ってないだけの人にも見えた。
「お金がないので家に帰れないんです」とその人はいった。「なので、少しでいいからお金くれませんか」
くれませんか、とストレートにいわれたのがはじめてだったのと、こわい感じではなく、たんたんと話す様がひどく疲れて見えたこともあって、断る気分にはならなかった。
どこまで帰るのかを訊くと、東京駅で乗り換えるのだと言う。じゃあとりあえず東京ですよね、なんていって、いくらくらいかかるのかわからなかったけれど、とりあえず財布に入ってた500円玉を渡すと、簡単な礼を言って、彼は去った。
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今朝思いだしたのはその時のことだった。もしかすると、「帰れない」というのは、嘘だったのかもしれない。だけど、真っ先に思いついたのは、あの人に「今日なら帰れるんじゃないですか」って言うことだった。
このこと思いだすまでずっと、私の中であの人は井の頭公園をぐるぐる回っていたのかもしれない。そんで今日、やっと、ただで電車乗り継いで,帰れなかった家に、帰れる。そんな気がした。それはつまり、あの人が私で、私が帰りたかった、ということで、もしも、すべてののりものがただになったりしたら、みんな帰れるのに、なんて想像しながら早く帰りたいなあって思っている、いま昼下がりです。