「虫けら様」/秋山亜由子

うちに住み着いていた蜘蛛が、とうとう死んでしまった。もうずいぶん長いこと、つかず離れずのほどよい距離感で暮らしてきたので、私も妹も、とても残念に思った。しかし私たちは、とくに蜘蛛がすきというわけではなく、むしろ苦手だった。ただ、その蜘蛛が、あの蜘蛛として認識できていたから、特別に思っていたのだと思う。そして一匹を特別に思ってしまえば、その他の蜘蛛たちへの心持ちも、ずいぶんかわってくるものだ。

虫けら様

虫けら様

この漫画にでてくる虫たちは、普段身近にいるときは「シッ」と手で払うような存在かもしれない。けれど、作者の視線を通して見える世界にいるのは、個別の虫たちで、この視線を借りた後に、あらためて世界を見回してみると、今まで虫をこわいと思ったりしていたことが、ちょっと不思議になったりもする。のではないでしょうか? ってのは人によると思いますが、ともかく、その対象をどうとらえるかというのは、相手を個別に見るかどうか、名前のあるものとして見るかどうか、っていうところに、あると思う。つまり「ああ、このような生き物なのだな」って少し知ることが、まるで薄皮一枚がぺろりとはがしたような具合に、見え方をかえるのだと思う。
そう思わせてくれる細やかな描写が、それはつまり作者の虫への興味と好意ゆえのもので、読んでいてとても気もちがよかったです。
最後のお話「雪迎え」が、ちょうど蜘蛛のお話で、「ふふ」なんて蜘蛛と笑いあっているおじいさんがとてもかわいらしく、わたしもこのような老後を迎えたいものだなと、思ったりしました。

この日考えてたこととにたような気分だ → id:ichinics:20070705:p2