季節と電車

雨の日の電車には音が詰まっている。いっぱい、の詰まってるじゃなくて、ぎゅっと、こもっている感じがする。夏はどんなだったっけ、と、思い返そうとしたとたん、耳元によみがえるのはゴウゴウと鳴るクーラーの音、そして、白いシャツの男の子たちが、窓を全開にして風を浴びていた、いつかの光景にスキップする。→この感じはまるで、コーラのプルタブ開けた瞬間のよう。軽いため息が冬の電車に風穴をあけ、夏の匂いが押し寄せる、穴の向こうにはひらべったい海が見えて。→いつかの夏、がらがらの江の電の車内を思い描きながら、そうか、あの日は、平日だったのだなと理解する。どこへ行ってもすいていたけど、どこへいってもすこしさみしい。路地の奥に見えかくれする猫の影と、どこかから飛んできたシャボン玉。→心臓の音と重なるバスドラムの音。イヤホン分け合って音楽聞いてる制服のカップルの、ぎこちなく繋がれた手を眺めながら、あのひとは私の爪の色、覚えているだろうかと思う。→曇った窓ガラスのむこうに海が見えるような気がする、12月の雨の日。