島の思い出

たくさん雨が降ると、インドネシアに旅行にいったときのことを思い出す。

ビール片手に、ついさっきまで土砂降りだったとは思えないような空を、ぼんやりと眺めていた。なんでここにいるんだろーなと、10分に1回くらいの割合で思ったが、とくに考えるでもなく、さっきの大雨で流されたビーサンのかわりに買ったビーサンで道ばたの花びらを蹴ったり、その写真を撮ったりしていた。
買い物から戻ってきた友人に、「ココナツジュース飲む? マズいよ」と言って手渡されたそれを味見させてもらって、「ほんとだマズい」と言って笑う。甘くないんだねココナツって。甘いと思って飲むからマズいのかもね。などと言いながらなんとなく歩きだす。スコールとか言われても乳酸菌飲料しか思いつかないというのは嘘だけど、乳酸菌のこと思いだしたのでカルピスが飲みたいなと思っていた。

宿を出て、蛍が行き交う畑沿いの道をずっと歩いた曲がり角、土産物屋の横には電話屋があった。紙切れに電話番号と国名を書いて出してかけてもらうんだった気がする。電話してる間、カウンター越しに向かい合う電話屋さんにじっと見られているので、落ち着いて話ができなかった。ただ、べつにホームシックというわけでなくても、懐かしかったりすると電話口で涙もろくなる私は、すぐに顔を覚えられ、しばしば電話屋さんに笑われたりもした。肩もたたかれた。そのことを電話口で伝えると、海の向こうからも笑い声が聞こえた。

電話が終わると、外はすっかり日が暮れ、触れる空気が軽かった。気の抜けた炭酸水みたいで、透明だった。宿に帰る道すがら、ギターを弾いたり、バイクでどこかいく相談をしていたりする人のささやかな群れを抜け、その先の路地を曲がれば、いつもの家につくんじゃないか。そんなことを思うくらいに、もう長い事ここにいるような気がした。
早く帰りたいと思うのはこんなとき、そして、どこもたいして、そんなに遠くないよと言っていたのはたぶん距離のことではなく、この気持ちのことだったんじゃないかと思った。