「ハローサマー、グッドバイ」/マイクル・コーニィ

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

私の知らない面白い物語は、たぶん私が一生かけたって読みきれないほどあるんだってことを、最近考えていて、もちろんいままでだってそれを知ってるような気になっていたのだけど、改めてそれに気付く瞬間ていうのはたまにしかこない。
この気分を逃さないうちに、と思っていたおりに、murashit さんのすてきな感想(こちら)を読むことができて嬉しかった。そして、私はすぐに「ハローサマー、グッドバイ」を買いにいき、今日やっと読み終えたわけです。

この物語は、海洋SFであり、同時に主人公のドローブと、彼が両親とともに休暇を過ごすことにしている町にすむ少女、ブラウンアイズとの初恋のお話になっている。
物語世界では、罵倒語として「氷」に類する言葉が使われていて、その訳し方について読みはじめは少しつかえることがあった。でもすぐに慣れる。そして、繰り返される「氷結」とか「凍れ」などという罵倒語は、きちんと物語に生かされていく。だからこの物語はSFとしても楽しめるし、でも物語を最後まで読み終えてしまえば、残るのはやはり初恋の物語だと思った。
ドローブの父親に対する反抗的な態度と周囲の人たちに対する目線には、思春期特有の甘えと正義感があり、その頑さが、ブラウンアイズの前で真摯さに変化していく様子はとても、鮮やかだ。
例えば自分が小学生の頃の、あの訳もなく好きになって訳もなく全部を肯定したくて、でも時折何かが心配でたまらなくなるみたいな気持ちがちらっと過り、奥の方に重いものを投げ込まれたような気分になる。あのような訳のなさを、やがて自分がどうしたのかも覚えているし、でもだからこそドローブとブラウンアイズの2人を見て/読んでいるのは、月並みな言葉だけど、眩しかった。
遠くへ行ってしまった人の諦念が正しいこともあるけれど、でも、手にあるものを守ろうとする人に諦念は届かなくていい。その訳もなさは、言葉にしてしまえば凍ってしまうのだと思う。彼らが守られますように。