世界の終わりと夜明け前/浅野いにお

世界の終わりと夜明け前 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

世界の終わりと夜明け前 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

やっぱり見かければすぐに買って読むのだけど、どうしてもこう、もやもやした気持ちが残る。
この「世界の終わりと夜明け前」は、浅野いにお初短編集、と銘打ってあるけれど、これまでの作品も、基本的に1話完結のものが多いし、町を俯瞰するような本全体の印象はデビュー作の「ひかりのまち」に似ていると思う。
ただ、それぞれに切実さがあるというテーマが繰り返されるなか、時々、その切実さは用意されたもののように感じられる。軽薄さを描きながらも、その背景にかならず切実さ、もどかしさがあることで、なにかゆるされるのを待っているような、うがった見方をしてしまう。
それは読んでいる私の甘さを投影しているだけなのかもしれない。でも例えば「東京」というマンガ家が主人公の短編で描かれる迷いには、どうしても作者自身を想定して読み進めてしまうし、そこで、

「自分には決定的な何かが欠けていて、描けども描けども、…きっと満たされることはないだろうなって思うんです」p234

という台詞を語らせ、

僕がどこかに大切なものを置いてきてしまったからなのかな?

と続くのは、やはり物語中で編集者が言うように、「浅く感傷的すぎる」(p233)気がして、それはんじゃないだろうか…。

冒頭の「無題」「夜明け前」などは、以前「ひかりのまち」の感想(id:ichinics:20050620:p1)で引用した岡崎京子の「東京は朝の7時」へのオマージュにも思えるけれど、「ひかりのまち」にあった葛藤の部分だけ抜け落ちてしまったようだ。

この短編集の中では、「アルファルファ」が一番印象に残った。2005年の作品で、この本の中ではもっとも古い。

「本田はヤンキーになっちゃうの?」
「杉崎だって中三にもなってゲームやって…アキバ系になっちゃうぜ」p48

ああそうだ、まだ何にもなっていないときってあったよなあと思った。
高校生から大学生になる頃には、なんとなく、自分の属性みたいなものにすり合わせることに慣れてしまって、属性なんてって思うことすら属性みたいになって息苦しくなったりする。
ヤンキーになるか、アキバ系になるか、話し合う彼らのやりとりを読みながら、それは別に、もしかしたら外側から決められるものじゃないのかもしれないなと思った。