夜の窓

谷川俊太郎さんの詩で、私が特に好きなもののひとつに、夜に起き出して窓の外を見ると、家々の明かりがまるで海の底に沈んだ光る石のようである、という一節があったように思う。手元にないのでうろ覚えではあるけれど、その描写と私の記憶はすでに混ざり合っていて、夜の明かりを眺めるたびに、思い起こされるのは私の家の2階へと続く階段の途中にある小さな窓であり、そこにははだしの足の裏の冷たさと、手に持ったコーヒーの湯気と、不意に冷蔵庫のうなり声が止まるときの、いっそうの静けさがある。
最近、アパートは家というより部屋だよな、ということを考えていて、それは広さの問題というよりも、1人用の明るさにあるんじゃないかと思った。
だからこそ、すでにほとんどの人は眠っているであろう時間帯の明かりの向こうには、2階へと続く階段の窓の前に立つ、冷たい足の裏があるような気がしてしまう。
そして、明かりを消したとたんに静けさも消え、ここがどこでもなくなるように思って安心する。