「論理と感性は相反しない」/山崎ナオコーラ

論理と感性は相反しない

論理と感性は相反しない

書き下ろしの連作短編集。
すらすら読めて、なんだかとても楽しかった。そして、こういうのは錯覚なのかもしれないけど、作者もこれ書くのすごく楽しかったんじゃないかなーとも思った。
この本におさめられた全部で15の短編には、共通したりしなかったりする登場人物数人の視点から、重なるようで重ならない場面のスケッチが描かれている。
表題作には、この本の中心人物のひとりである神田川と、真野の生活があって、「アパートにさわれない」にはその数年後の2人がいる。人がでてこない話もあれば、作者の分身と思われる「矢野マユミズ」という小説家が登場する話もある。その中で、「マユミと水」って説明を見て、ようやく「ナオコとコーラ」なのかなと思い当たったりもした。
小説家が小説家について書くのって、読者は作者と重ねて読むだろうし、だからこそフラットに書くのって難しいんじゃないかなと思うのだけど、このマユミズについてはなんていうか、すごくフラットな感じがした。小説を書いているときは、身の回りにあるもの全てを小説に利用したくなる。でもそれだけじゃなくて、ちゃんと目の前のものに向かってもいる。そのたたずまいこそが「論理は感性と相反しない」ということなんじゃないかなと思う。それから、表題作では感性を神田川、論理を真野が担当していたようだったけれど、数年後の物語ではその分担がなくなってしまっているのもさみしかった。
特に印象に残ったのは「まったく新しい傘」という短編。私は雨が降るたび、21世紀になっても傘をさしてるとは思わなかったなー、ということを思うのだけど、この短編に描かれているまったく新しい傘の雨あがりの様子はほんとうに素敵で気に入った。

この本は、風呂上りの水を飲むように、さらっと読み終えてしまったのだけど、ところどころにすごく印象に残る破片のようなものがあって、ともかくとても楽しい読書でした。

そうして二人は末永く幸せに暮らした……と締めたいところだが、人生というものはそう上手くはいかないもので、この三年後には共同生活に終止符が打たれ、二人は別々の道を歩みだす。しかしながら、永遠に各々の脳の中で、この頃の生活がキラキラと、いつまでも光り続けるのだ。/p23