昔話/背中

子どもの頃、相手に背中を向けて立って、後ろ向きに倒れるっていうゲームをやったことがある。もちろん、このとき相手は倒れてくる人を支えるというのが一応のルールになっていた。
初めてやったのは小学生の頃で、相手は母さんだったのだけど、なんのためらいもなく背後に倒れた私を見て、母さんはうれしそーに「私のことずいぶん信用してるのねー」などと言っていた。どうやらそれは、そういうことを図るゲームのようで、その後体育の授業などでもやったような気がする。
まあ、確かに後ろ向きに倒れるというのはちょっと勇気がいることだけど、母さんはわりとふくよかだし、まあぶつかっても痛くないよなあと思ったのは内緒で、ともかくそのとき、背中を支えてくれた両手の安心な感触は今でもなんとなくイメージできて、だからもしこの先、そのゲームをすることがあったとしても、私はためらわずに倒れることができると思う。
でも、そこにあるのは安心だけじゃなくて、後ろを見ずに倒れる、ということの気持ちよさみたいなものが確かにあって、その、どうにでもなれ、って気分を思い出すと、どことなく後ろめたくなる。
それはやっぱり、そこにあるのが安心というより期待に近いからなのかなあと考えてはみるけれど、それはそれで間違いじゃないような気もして、
もしも(たぶんないとは思うけど)この先そのゲームの相手になることがあったなら、しっかり支えられるような腕力を蓄えておかなきゃなとか思っている。