Oさん

先日、偶然調べていたことで以前お世話になった人の名前に行き当たった。
Oさんとは、ある仕事の仲介を頼んだことで知り合った。初めて会った時に入った少し高級な居酒屋で、いきなり幕の内弁当を頼んでいたのをよく思い出す。きちんとご飯を食べ終わってから、つまみなしでお酒を飲む人だった。
出会った当時もう70を越えていたOさんは、現役時代かなり有名な人だったのだけど(というのは後から知った)、かといってこちらを見くびるようなところが全くなく、私が知っているOさんの仕事について何か質問をすると、どんなささいなことだろうと嬉しそうに話してきかせてくれた。いつも前のめりで、早足出歩く人だった。
送られてくるFAXはアダルトビデオのチラシの裏紙であることが多く、いつも裏写りしていた。そしてそこにはたいてい「電話求む」と書かれていた。
電話をかければいつもなぜか歴史上の人物についての話になることが多く、話長いなあ…とか思いつつ、切る頃にはいつも次の約束をしていた。

Oさんとの初めての仕事は、私がはじめて自分でやりたいといって通った企画ものだった。
しかし、その途中で、会社の状況が悪くなり、シリーズで6回やるはずだったその企画は3回で終わらざるを得なくなった。そしてその3回目ができあがる頃、私はその会社をやめることになり、最後にOさんに会いたいと思ったのだけど、連絡がとれないままになっていた。

OさんのWikipediaを見て、もしかしたらあの仕事がOさんの最後の仕事かもしれなかったことを知った。
そして、あのとき仕事を最後までやれなくなってしまった気まずさと恥ずかしさで、連絡をあきらめてしまったのは私の方だったんだなということを思う。
当時の職場のことは、今はもうあまり思い出したくない出来事になってしまっているのだけど、今さらながら、Oさんとの仕事のことは、もっと大事にしようと改めて思った。あれは私がやりたかったことで、だからOさんに会ったんだもんなと思う。