「クリスティーン」/スティーブン・キング

おすすめしていただいてた「クリスティーン」*1を貸していただいて読みました! ありがとうございます! 面白かったー。
読み始めるまで、てっきりクリスティーンという女の子が出てくる話なのかと思っていたのですが、そのクリスティーンはなんと「車」でした。たぶん、アメリカで(?)車のことを「彼女」とかいういい方する習慣があるのだと思います。
物語は、主人公の友人、アーニーが「クリスティーン」と名づけられたプリムスに一目ぼれして、どうにか手に入れるところからはじまります。どちらかというと、いじめられっこに近いアーニーは、クリスティーンを手に入れたことで変わっていく。デニスにはたぶん、アーニーの魅力は自分しかしらない、という自負があり、だからこそ、自分がクリスティーンに対して抱いている感情を嫉妬なのもしれないと度々自問する。
でもどう考えてもそれは始まってしまっている、と気づいたところからは一気にホラー小説としての勢いが増すのだけど、ところどころ可笑しさもありつつ、映像で見たいなと思う場面が多かったです。映画版も見てみたい。
でも個人的に、この「クリスティーン」は、ホラーというよりも青春小説としての印象の方が強かったです。冒頭文が回想であることからも、何かが起こることはわかっているのだけど、その「事件」を動力にしながら描かれる、主人公デニスと内気な少年、アーニー、そして二人の間に現れる美少女、リーの三人がほんとうに魅力的だった。
特に、終盤に描かれる、あの感謝祭の夜のくだりは本当に切なかった。

「ぼくの記憶に誤りがなければ、あんたはいつも言ってたな。木曜の夜十一時半ごろ、ターキー・サンドイッチをふたつばかりつくって、勝手に食うほうが、昼間、正餐として食うのよりもずっとうまい。かたくるしくないからだ、ってね」上巻p472

こんなことを覚えていてくれる友達がいるってなんてすばらしいことなんだろう。この後の展開を知ってから読み返すとなおのこと。
それから、リーとデニスのやりとりも、その後が透けて見えるようで、なんというか、うまいなあと思ってしまった。

ところで、この作品を読んで思ったのは、スティーブン・キングという人の書く物語は、そこに起こる事件がメインというわけじゃないんだな、ということでした。
というのも、途中まで、もしかしてどんでん返しがあるのかなって構えながら読んでいたからなんだけど、最後まで読むと、「しかけ」そのものはあくまでも状況でしかないように思えた。そして、それなら映画「ミスト」のラストが原作とはちょっと違う、という話をどっかできいたのも腑に落ちるなあ、なんてことを考えたりした。

余談だけど、映画でしかみたことのない、いかにもアメリカっぽいやりとりを読んでいると、自分が中学生の頃を思い出す。たぶんその頃はじめて近所にレンタルビデオ屋ができて映画借りてきたりするようになったからだろうけど。

クリスティーン〈下巻〉 (新潮文庫)

クリスティーン〈下巻〉 (新潮文庫)

*1:絶版だった…