「SOSの猿」/伊坂幸太郎

伊坂幸太郎さんの新刊。
別の本を買いに行った際に並んでいて手にとり、結局こっちを買っていた。冒頭シーンにある

「どこかでね、誰かが、痛い痛い、って泣いてるんだよ。だから、助けに行くんだよ」/p7

という台詞を読んで、なんとなくこれは私が好きな「砂漠」(id:ichinics:20060107:p1)と近いお話なんじゃないかって思ったからだ。

SOSの猿

SOSの猿

この物語は、「困っている人を助けなければいけない」という思いにとらわれた主人公、二郎が、ある引きこもりの少年の物語と、「因果関係を調べる男」とをつなぐお話。なんて説明すると何のことやらだけど、はじめは2つに別れていたお話が、最後ひとつになる、その間に主人公がいるお話です。
伊坂幸太郎作品といえば、盛大に伏線を回収していく物語を期待する人も多いんじゃないかと思うのですが、この「SOSの猿」において「しかけ」がひかえめなことも、物語がひとつになってからの「そううまくはいかない」感じも、結末までよむとあえてなんだろうなと思う。
西遊記」をモチーフに使って、ところどころファンタジーのような描写が入るのは「あるキング」にも近いかな。何より、読みながらいろんなことを考えられる楽しい読書だった。

最初に思ったとおり、主人公の二郎と「砂漠」に登場する西嶋には似たところがあった。ただ、「砂漠に雪だって降らせる」と言い切ってしまう西嶋と違って、二郎は

その声や音が私の耳にわっと飛び込んでくる。が、何もできない。SOSに応える力など私にはない。見て見ぬふり、聞こえないふりをするだけだ。そのことがいつだってつらい。どうすればいいのか。/p76

と思い悩んでいる、むしろ背中合わせのような人物だ。
「正義とは何だろう、とか考えててどうするんですか? 助けちゃえばいいんですよ」と言う西嶋のむちゃくちゃな自信は確かに頼もしかったけれど、二郎の抱えるこのつらさの方が、近いところにあるのは確かだ。

「自分はもっと良い人間であるはずだ。もっと強い人間であるはずだ。何でもできるはずだ。若者には、自分にそう期待する力と無邪気さ、権利があります。ただ、大人になればなるほど、期待は失望に変わります。自分がどういった人間であるのか、把握もできるわけです」/p131

思わず苦笑する。でも、じゃあ「どうすればいいのか」。
この物語はその疑問に、作者なりの、現時点での、結論を出す物語だったのだと思います。

そしてなんと、この物語と対になる漫画を五十嵐大介さんが担当するとのこと。こちらは来年2月に発売になるらしい。楽しみです!