「シュレディンガーのチョコパフェ」/山本弘

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

友だちに貸してもらって読みました。面白かった。
『まだ見ぬ冬の悲しみも』という本を改題し、1編追加収録した文庫版とのこと。この追加収録の短編「七パーセントのテンムー」が個人的には一番気に入りました。
人類の中には7パーセントの割合で、「I因子欠落者(テンムー)」がいるという研究が進む中、自分の恋人が「テンムー」であることを知った女性が主人公の物語。

I因子欠落者は自意識を持たない。これは昔から哲学者が「ゾンビ」と読んでいた概念だ。普通の人間と同じように思考するが意識をもたない人間。(略)その脳の中には〈私〉という概念がない。p327

物語の進む方向が、「意識」の話になっていくのが、とても好みで面白かった。これと同じアイデアが『神は沈黙せず』にも使われているとのことなので、それも読んでみたい。
その他の短編も、自分がこれまで読んできたSF(数はかなり少ないですが)と通じるものがあったりして楽しい。以前読んだ「アイの物語」と通じるところがあったりするのも、おもしろかったです。

もうひとつ、気に入ったのが「メデューサの呪文」という短編。これは、異星人によってもたらされた数行の詩が人類を滅ぼしかける…というお話で、なんとなく『ハイペリオン』を思い出したりもした。

「本当の海も頭の中なのだ。君は本当の海を見たと思っているが、そうではない。本当の海など誰にも見えない。太陽の光が海に反射して君の眼に入り、網膜を刺激する。視神経がインパルスを脳に伝え、脳がイメージを構成する。君が見ているのはそのイメージだ。詩の完成度が高いほど、それが喚起するイメージも鮮明になる。そこにある海も、詩に描写された海も、入力の経路が異なるだけで、等価なのだ」p221

このような、作者の(といっていいのかわからないけれど)「言葉」に対する思いはとても好きだなと思ったし、確かにその通りだと思うところもある。
ただ、全ての(もしくは大多数の)人に同一のイメージをもたらすような言葉があるのかというと、それはない、ような気もするのだけど。
もうちょっと考えてみたい。