「オラクル・ナイト」/ポール・オースター

ポール・オースターの邦訳新刊「オラクル・ナイト」を読み終わった。雰囲気としては、NY3部作を読んでいたときの印象に近い、とても好みの物語だったのだけど、それだけでなく、複数の物語が絡み合う描き方がとても面白い読書でした。

オラクル・ナイト

オラクル・ナイト

例えば、このような感想を書くときに私が思い起こすことといえば、最初に私がポール・オースターの作品を読むきっかけになった人のことであり、彼に借りた『シティ・オブ・グラス』を読み終えたばかりの、感想を話そうと口を開きかけた私に向かって、彼が「でもポール・オースターを好きって言うのはなんか照れくさい」などと捻くれたことを言った、その場所が下北沢の北口にある喫茶店だったことである。2階の窓際の席で、とても天気の良い日だった。私はそこでオムライスを食べていて、それは当時その店の看板メニューだった。
彼の言葉はともかく、私はその後ポール・オースターの訳書を買いあさり、すっかり夢中になって後に柴田元幸さんの翻訳教室(本格的なものではなく、夜間に行われるセミナーのようなものだ)に通ったりもしたのだけど、その教室があった都心のビルのことを思い出すと、同時に当時よく聞いていたルナの「Penthouse」というアルバムのジャケットを思い出す。
そんな風に、1つの言葉の背景には様々な風景と物語があって、この「オラクルナイト」はそういった複数の物語を1つの時間軸の上に織り込んでいくような構成になっているのが面白いなと思いました。
特に注釈の使い方が新鮮で、最初は読みにくく感じたのに途中からそれを楽しみに読むようになっていました。