秋、クリームシチュー、びわ

台風が来た頃にすこし長袖を出して以来、週末がくるたびに衣替えをするかどうか悩みながら、ついに10月になってしまった。「もう秋か」という言葉がいつのまにか「すっかり秋」へとかわり、暗くなっていることに気づいて時計を見るとまだ17時だったりする時にはかなしい気持ちになるし、残り少ない「暑さ」をかき集めたいような気分で毎日を過ごしてはいるのだけど、朝が涼しく、日中はあたたかく、夜は寒くない程度というのはなかなか過ごしやすくて、最近は自転車での帰り道に、よく遠回りをして帰るようになった。
花も葉も夏っぽいのは芙蓉、一本の木に白とピンクの花が付いているのが不思議だと思っていたのだけど、かえって調べてみると、これは酔芙蓉といって朝は白く、時間が経つにつれ赤くなっていく花らしい。
鈴なりの黄色い実でずっしりと重そうなびわの木。幼い頃は、びわを食べるたびに庭に種を埋め、いつの日かびわ食べ放題になるのを夢みていた。
その下に咲く彼岸花、ザクロの実はまだ固く口を閉じている。
キンモクセイのにおいに混じって届くクリームシチューのにおい。そういえば最近よく料理をするようになった父親のレパートリーは、カレーとクリームシチューと鍋らしい。

そんな話を思い出しながら週末実家に寄ると、母が留守のせいか、案の定晩ご飯はクリームシチューだった。父のつくる料理といえば、母が入院していたときの塩味すき焼き以来かもしれない。あのときはしょっぱくなってしまった牛肉を救出することよりも、父の機嫌が急降下していくことの方が気がかりだったのだけど、
今日のクリームシチューはとてもおいしかったし、台所を見れば、細かなレシピ表が目線の位置に貼ってあり、人はそれなりに変わるものなんだなと、思ったりした。
ちなみに庭にはまだ、びわの木は生えていなかった。