猿の一休み

「モンキービジネス」の最終号刊行イベントに行ってきました。
出演は、小野正嗣さん、岸本佐知子さん、川上弘美さん、小澤實さん、古川日出男さん、そして「モンキービジネス」の責任編集者である柴田元幸さんでした。
「モンキービジネス」は、たいへん惹かれる特集・ラインナップが多く何度か買ったものの、読むのが遅い私にあの分量は積読を増やすことになってしまいがちであり、全部読み込んでいるわけではないのにここにきていいのかなと、若干及び腰で向かったのですが、終わってみれば大変面白い会だったので思い切ってきてよかったと思いました。
イベントは前半、それぞれモンキービジネスに掲載したものから選んだ朗読があり、後半は座談会や質疑応答でした。

モンキービジネス 2011 Fall vol.15 最終号

モンキービジネス 2011 Fall vol.15 最終号

朗読で特に好きだと思ったのは小野正嗣さんでした。「マンジと亀」という作品を朗読されたのですが、ひとつの文章のなかで時間や場面を行き来するため、次の言葉が現れるたびに、ドアを開いて行くような面白さがあった。それでいて、わかりづらいということがなく、テンポも、文の区切り方も、大変心地よかった。今度本を買って読んでみようと思います。
小野さんは柴田元幸さんのもと教え子であるとのことで、こころなしか、朗読の仕方が似ているようにも感じました。柴田元幸さんが「自分はセンテンスが長くなるのが好きなので、小野さんの文章もこのモンキービジネスに書くからにはどんどん長くしていいという話をした」と話していたけれど、わたしもセンテンスの長い文章がとても好きで(短くテンポがよいのも好きなのだけど)、だからより一層、小野正嗣さんの小説に興味がわきました。

それから岸本佐知子さんは、今まで著者近影的なものを見た事もなかったのですが、翻訳というよりはエッセイをよんで抱いていたイメージととても近い人でした。朗読もたいへん面白く、本になったら絶対買うのでぜひなってほしい。
特に面白かったのが、車掌さんとの恋愛話だったのだけどこれが翌日のtwitterを見るとモデルが榎本俊二さんであったとのことでそう思うと余計に素敵だ。

そういえば、私が昨夜朗読した中の「車掌のシュンジさん」というのは、漫画家の榎本俊二さんのことです。榎本さんとある賭けをして、負けたほうが自分の次の作品の中で相手を最大限に美化して登場させる、という約束をして、私が負けたのでした。
https://twitter.com/#!/karyobinga/status/141740659471163392

そして岸本さんの朗読を聞きながら、ふと視線をそらすとそこには笑顔で目を伏せている川上弘美さんがいらして、ああもし自分が高校生の男の子でこんな人を好きになってしまったら大変なことだと思ったりした。例えば自分が働くパン屋さんにこんな人がパンを買いにきたら。喫茶店にコーヒーを飲みにきたら。不躾に見つめてしまわない自信が無い。ついついそんな妄想をしてしまうような、不思議な魅力のある方でした。
川上さんの「モンキービジネス」での連載「このあたりの人たち」は、「『ワインズバーグオハイオ』が好きで、ああいうのをやりたかった」、と話していたのが気になったので近々読むこと。

俳人の小澤實さんは今回初めて知った方なのですが、帰宅してあらためて見返してみると、俳句に関して言えば個人的には朗読よりも、文字で見る方が好きかもしれないと感じました。日本語というのは漢字を使うか、使うならどの漢字を選ぶか、などということでもかなり印象が変わるし、音だけで判断できない言葉もわりとおおい(例えば、ひとたち、が、一太刀なのか人達なのか、文脈を見なければわからないとか)ため、俳句は二度よむのだろうけれど。朗読の後半、アメリカで朗読した際のお話があったのですが、そこでは柴田先生による英訳もあわせて朗読した、とのことで、英語になると意味がストレートになる、というようなことを話していたことも面白かった。そして小澤さんがよまれた古川日出男さんについての句もすてきでした。

古川日出男さんの朗読を聞いたのは、日記を読み返してみるとなんと5年ぶりでした。5年前は、もう少しぼくとつとした朗読だったように記憶しているけれど(それでも独特の朗読だった)、完全にプロの朗読師のようになっていました。
柴田元幸さんが、古川日出男さんの原稿はルビの指定やフォントサイズなど、原稿内に様々な指定がしてあって、まるで楽譜のようだと話していて、見てみたいと思った。

朗読の後の座談会で印象に残ったのは、「文芸誌」の話と、それから執筆の最中に音楽を流すかどうかという話。
古川日出男さんは音楽を流す派で、椅子にすわって何を聞きたいかわからないときは調子が悪いときとおっしゃってもいた。逆に、岸本佐知子さんは音楽を聞きながらは書けないタイプとのことで、音が流れていると「聞こえなくなる」と話をしていた。仕事をする日は朝からテレビもつけずインターネットもみずに机に向かうと話していた。また、岸本さんが最近訳されたショーン・タン(最近教えてもらって気になっていたところだった)もまた、絵を描くときは音楽をかけるけれど文章を書く時は無音でないと)と話していたとのこと。
誰がどのように答えていたかは忘れてしまったのだけど、音楽を聴きながらはなかなか出来ないという方が多数でした。

それから文芸誌の話絡みで、柴田さんが「英米の書評というものには“小説には正解がある”という雰囲気がある。物語の主人公は人類代表であるような読み方をする書評が多く、その点から言えば日本の書評は自由である」というようなことを話していたのが印象的でした。

というわけで、約2時間とても楽しかった。熱心な読者ではなかったので大声では言えないけれども、惜しい場所がなくなったような気もするし、今後どのような展開を見せてくれるのかが楽しみだなとも思います。