「天地明察」/冲方丁

とっても面白かったです。とても簡潔な語り口ながら、読みながらなんどもぐっときて、涙ぐんで深呼吸したり、笑ったりした。読み終えて、ああ楽しかったなって満足感でいっぱいになりました。

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

江戸時代、囲碁の家元である安井家にうまれた主人公「渋川春海」が、新たな暦を作るまでの物語。将軍お抱えの碁打ちとして囲碁を教える日々に退屈しつつ、自分が好きな算術のこととなるとなりふり構わずに夢中になってしまう主人公にとても好感を持ちました。タイトルにもある「明察」とは算術で使われる正解の意味であるようですが、なにか眼前が開けるような気持ちのする、良い言葉だなと思います。
春海の周囲にいて、彼を助ける人々もみな魅力的でした。特に印象的だったのは物語前半に北極出地観測隊として春海と共に旅に出る、建部と伊藤という2人の大先輩の存在です。その2人が春海に向ける、自分を越えて行くものへの眼差しが、物語の後半になって春海にも受け継がれていることがわかる場面には特にぐっときて、このバトンタッチの瞬間こそがこの物語のテーマにもなっているんじゃないだろうかと思いました。
物語の冒頭に現れる天才、関孝和がさながら北極星のように彼の目指す方角に輝き続けていることにより、春海自身は「追い続ける人」として対比されてるという構図も物語の勢いになっていたと思います。関さんの解答を見たいような見たくないようなでも見たい場面は読みながら声をだして笑ってしまいました。
ほんとうに面白かった。

冲方丁さんのマルドゥックシリーズがとても好きだったので、気になっていて、文庫が出たタイミングで読んだのですが、良い意味で全く違う雰囲気の作品なのもよかったです。
あと読みながら春海役としてずっと思い浮かべていたのは、境雅人さんでした。目に浮かぶ!
天地明察(下) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)