「この空の花―長岡花火物語」

とにかく映画館で見ておいた方がいいらしい、と耳にしたタイミングがちょっと遅く、上映館が点々とする中、やっと見に行くことができました。すごかった。見て良かったです。

大林宣彦監督の映画はほとんど見たことがなくて、「転校生」「時をかける少女」「ねらわれた学園」をまだレンタルビデオの時代に見たのと、あとはテレビで放送されているのを見た気がするのが何本かという程度です。なので、監督らしさ、みたいなものはよくわからないのですが、わからなくても映画がはじまったとたんに、なにかすごいものを見ている…! という感覚に叩き込まれるのは久々で、楽しかった。
とにかくオープニングからタイトルがいくつもでてきて、どれがこの映画のタイトルなのかよくわからない。その背景に流れる、旅支度をしている主人公の部屋の外の風景は、明らかに合成なのでは? などと目を凝らしたりしているうちに、登場人物がこちら側に話しかけてきたりもする。しかしそのような「作り」の個性の強さはあくまでも演出のひとつであって、見ていると実はとても細かな構成をされた映画であることがわかります。編集作業を思うと気が遠くなりそうです。
それなのに、少なくとも昨年の長岡花火大会までは決定しなかったはずの物語が、今年の4月にはこのように仕上がっていたというのは驚くべきことだと思う。

映画は、天草で新聞記者をしている主人公が、かつての恋人からの連絡をうけて新潟県長岡市を訪れるところからはじまります。旅の目的は、長岡市の花火大会の日に披露される「演劇」を見に行く事。そして、主人公と彼の別れの場面が回想され、主人公が発した「私たち戦争なんて関係ないのに」という言葉に含まれる謎が、放置されそうでちゃんと解き明かされるというところで、物語の軸になっていると思います。
実は私は8年くらい前に、長岡花火大会を見に行ったことがありました。川の近くに座って見たのですが辺りはとても暗く、その暗さの中に打上る、視界におさまりきらないくらい大きくてくっきりとした花火がとても印象に残っています。
でも、この映画で描かれるような長岡花火の物語は、何一つ知りませんでした。
だから、この映画を見た事で、あの花火の背景を知る事ができたというそれだけでも、見て良かったなと思っています。

この物語のもう一人の主人公「花」は、物語の今とあちら側を繋ぐ存在として描かれています。常に一輪車に乗っていることで、ゆらゆらと揺れたり、上下せずに画面を横切る「浮世離れした」雰囲気を、この役に採用するアイデアは面白いなと思いました。
花を演じている猪股南さんが所属している青森県「豊田児童センター 一輪車クラブ」のメンバーも映画に出演していて、群舞を見せるシーンがいくつかあるんですが、旗をもって橋の上を通り抜けて行く場面などはとてもすてきでした。

「?」が浮かぶシーンや、あまりにも強烈で笑っちゃったシーン*1も多々あったのですが、
メインテーマである花火を完全に善として描くわけでもなく、かわいそうな話として描くのでもない視線は、あくの強い物語であるにもかかわらず、とても素直に響いた気がしています。
一緒に長岡に花火を見に行った友人に、今度この映画の話をしてみようと思いました。

*1:見たら忘れられない「痛いな! この雨、痛いな!」のとこですね