「偽義経冥界歌」(3/10昼公演)を見ました!

劇団☆新感線、旗揚げ39周年にあたる「39(サンキュー)興行」として開幕した、いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)』をみてきました。

中島かずき脚本、いのうえひでのり演出の「いのうえ歌舞伎」としては、2014年の『蒼の乱』以来とのことで期待も高まりますし、歴史物がそんなに得意ではない自分も源氏ものには弱いので(中村吉右衛門の「武蔵坊弁慶」で育ちました)、これは来年まで待てない!と思い、大阪に観に行くことにしました。
(「偽義経冥界歌」は今年は大阪、金沢、松本で、来年2020年に東京、福岡で上演されます)

結論から言うと、行ってよかったです大阪。とっても楽しかったし、とにかく生田斗真さんと中山優馬さんの兄弟が最高なので、2人のファンの方は嬉しいだろうなあ〜!! と思いました。あと早乙女友貴さんの殺陣も盛りだくさんなのですごい。見たら絶対楽しい舞台だなと思うので全力でおすすめしたいです。

以下は長々と感想というか、私は中島かずき脚本のどういうところにに惹かれるのか…という話です。(一応ネタばれになりそうなことは避けています)

私は一昨年末に突然「髑髏城の七人 season月」にどハマりしたものの、劇団☆新感線にはまったという感じでもなく、昨年もメタルマクベスに通いつつ、いまひとつ身の置き所のない感じでそれ以降を過ごしていました。
というか、実は劇団☆新感線のこと、月髑髏を見るまでは、むしろちょっと苦手に感じていたくらいで*1、新たに見るものも、すごく好きなものと、好みではないと感じるものの差が大きかった。
それなのに月髑髏にはまってしまった要因としてはいくつか思い当たるところがあるのだけど、その大きなポイントの一つは間違いなく中島かずき脚本なのだと思います。
私が中島かずき脚本で最初に知って一番好きなのはもちろん「天元突破グレンラガン」なんですけど、月髑髏はかなりグレンラガンの方向性に近かったんですよね。そう感じたのはたぶんグレンラガンでのシモンに重なる「霧丸」がいたからだったんだと今は思います。(ここ、月の前までは女の子の「沙霧」というキャラクターだった)


そして今回の新作「偽義経冥界歌」は、これまでみた新感線舞台のなかでは*2いちばん、私が好きなタイプの中島かずき話でした。
中島かずきさんの作品には、藤子不二雄的に、ある程度よく使う「定型」があると思うのですが、本作のそれは「ダメなところもたくさんあるけど憎めない男が、周囲の手を借りながらヒーローになっていく」という物語です。けして特別な力があるというわけではなく、愛嬌とか度胸とか誠実さや創意工夫で乗り切っていくのが肝。

そして、この物語における「憎めない男」が、死んだ遮那王の身代わりとして偽物の「源義経」になる、奥華秀衡(藤原秀衡)の息子「源九郎(史実では国衡)」。
この源九郎を生田斗真さんが演じてるんですけど、登場した瞬間から光を放っているように眩しくて、双眼鏡で追うのがやめられませんでした。
責任感とかでは全然なく、単に自分には戦の才能があるからと「戦ができるならいっちょやるかぁ!」くらいの感じで義経を引き受けてしまう軽さに笑ってしまいつつ、なんだか愛しくて一気に好きになってしまう。

そして、そんな兄上に憧れつつ、自らの犯してしまった諸々に苛まれる弟「次郎(のちに元服して泰衡)は中山優馬さんが演じているのですが、中山優馬さんて「ギリギリのところに追い詰められている弟」が本当に似合うな…と思いました。舞台でみるのは「にんじん」*3以来だったので「弟」イメージが強いのかもしれませんが*4、泰衡になってからのメイクの美しさとか、表情の変遷とか、思い起こすと切なくて胸がいっぱいになります。

義経と弁慶の関係性や、義経と頼朝の関係性については、そもそも影武者の物語なので、これまでいろんな物語で描かれてきたサビ的なもの*5はありません。
ただ、静御前に似た立ち位置に置かれている「静歌」がいたり、側室の子であるために兄弟と対立せざるを得ない場面があったりする部分は、ある程度(国衡の史実に沿っているとはいえ)確実に「義経」に重ねて描かれているのだと思います。
個人的に、1幕を見終えたタイミングでは「たぶん「頼朝」の立ち位置にいるのが弟の泰衡で、源九郎は「義経」でしょ!?」って思いながら見ていたのですが(義経も実際の秀衡の長男も側室であることとか)、ラストにもうひとひねりどころか、5ひねりくらいあって、さすが中島かずき〜〜!! とひれ伏したい気持ちになりました。

歴史の穴というか、その逸話にこんな物語を見出すのかという驚きもあるので、源氏ものにまつわる話が好きな人にも見応えのある話だと思います。

そして!特に好きだったキャラクターは「りょう」演じる黄泉津の方
主人公、源九郎にとっては義母にあたる存在ですが、そもそもこの物語では奥州は巫女の国としてあるようで、おそらくこの黄泉津の方の夫となるのが次世代「当主」であるという設定なんだと思う(たぶん/戯曲読んで確認します)。
そして名前から分かるように黄泉津の方は黄泉比良坂の番人のような存在です。黄泉比良坂って島根じゃなかったっけ?と思ったのだけど、黄泉比良坂について少し調べると今回の舞台にまつわるキーワードがたくさん出てくるので、つまり今回の「偽義経冥界歌」は源氏ものと「古事記」のマッシュアップでもあったのだと思う。
……話が逸れましたが、この黄泉津の方は奥州の本来の「当主」としての責務の重さは物語が進むにつれ明らかになり、最後まで筋の通った人だったなと思えたところがとても好きでした。

そして、彼女の相方「くくり」との関係はまるで天魔王と生駒のようでもありました。(この2人、本作の私の推しでもあるので、どうぞよろしくお願いします!)
そしてこの「くくり」、第一声を聞いて、あれっ!?となったのですが、なんと新谷真弓さんが演じているんですよね! 私がやったーとなったのはもちろん「フリクリ」が好きだからで、舞台女優さんなのに舞台で見たのはこれが初めてだったんですけど、やっぱりとても好きな声なのでもっとみたいな…と思いました。

やはり「霧丸」のいる月髑髏ではまった自分は、特に同性間にある一言では名づけられない絆によって、何かに立ち向かう話に弱いのだな、と思う。そういう意味でもこの「偽義経」はとても好きな物語でした。

私が観たのは2公演目だったんですが、開幕したばかりとは思えないくらいの完成度で完全に圧倒されてしまいました。きっとこれからそれぞれの役者さんの色が濃く滲んで変化していくのだと思います。でもきっと映像とかに残るのは熟成された後半だと思うので、このまっさらなタイミングで見れてよかったなとも思っています*6
早くもう1回見たいけど、自分が次に見れるのは来年の東京かな…?
お近くの方で興味がある人はまだ買える日もあるはずだし、きっと当日券とかもあるとおもうのでぜひ…!!
上にはごちゃごちゃ書きましたが、頭空っぽにして偽義経の生き様を追いかけるだけでも、抜群に面白くてわくわくする舞台だと思います!

ちなみに珍しく遠征だったので、張り切って大阪観光もしてきました。友だちにたくさんおすすめを教えてもらってあちこち行ってきたので、それはまた改めて日記に書きたいなと思います! 楽しかった〜!!


以下余談

余談ですが、偽義経の初日前に中島かずきさんが「スパイダーマン スパイダーバース」をみたってツイートされてたので私も偽義経みた翌日にスパイダーバースをみにいったんですよ。
そしてこれが、Bを主人公としてみるとかなり偽義経にも月髑髏にも重なるところのある話だった。
それから中島かずきさんが源九郎のことを「好漢」と書いているのをみて、ふと、そういえば中島かずき作品は武侠小説とも近い雰囲気があるなと思ったりもした。(陸小鳳とかけっこう捨之介)
アメコミも武侠ものも全然詳しくないので、ぼんやりと共通点がある気がする…て思ってるだけなんですが、このあたりの解説を読んで腑に落ちたり誤解に気づいたりとかしたいな〜と思っています。
やっぱりニンジャバットマントークショー行くべきだったな…。
今年公開される「プロメア」も楽しみです!

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ichinics.hatenadiary.com
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*1:ふ○たさんが苦手なのです…辛かった職場の上司に似ていて…

*2:といっても髑髏城シリーズを抜かしたらそんなに見てないけど

*3:https://spn.ozmall.co.jp/entertainment/performance/318/

*4:もちろん山田菜々ちゃんの影響もあるけど

*5:私は勧進帳が大好き…

*6:自分はあまりコメディパートが多くない方が好きなのもある