シン・シティ

sin city

ものすごく面白かったです。ハードボイルドでハードコアで格ゲーで、動くマンガ。暴力シーンも満載なので苦手な人も多いと思いますが、ハードボイルドに目がない私にはごちそうな映画でした。
ロバート・ロドリゲスが原作者を口説き落として監督させた、といういきさつを聞いたときは、一抹の不安を感じたりもしたのですが、それがもう、コミックを実写化した作品で、これ以上の形は今まで無かったんじゃないかとすら思った。原作者が監督するとなると、どうしても原作のほうに重力が傾むき、コマ割りに囚われてしまうんじゃないか、というのがその不安の原因だったのですが、「シン・シティ」は完全に原作に重力を傾けきることで成功しているような気がしました。ずーっとドリフトみたいな。例えば今までアニメーションでしか描けなかったようなアクションシーンも、ワイヤー感があんまりなくて、それなのにスピード感と重さがしっかりと伝わってくる。これはほんと、構図とカット割りの妙だと思います。
それから冒頭のシーン、ザ・マンが女性を口説いたと思ったら殺してカメラがどんどんひいていって街のあかりがタイトルに変わって行くシーンの格好いいことといったらないですよほんと。
映像は殆どモノクロで、目の色や服の色などだけに色がついているという凝ったものなのですが、それもこの作品が「架空の街を舞台としたフィクション」であるというフィルターになっていて良かった。残酷なシーンが続いても、血の色がほとんど白で描かれているので、みやすいという効果もあったと思う。あれがカラーだったら見てられなかったかもしれない。
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映画ではシンシティを舞台に3つのストーリーが描かれているのですが、その主人公たちのハードボイルドさがまたぐっときました。台詞もいちいち格好いいのですが、これはほとんど原作をもとにしたものらしいです。個人的にはチャンドラーとエルロイの世界が渾然一体になった感じだと思った。
1話め「The Hard Goodbye」の主人公は、顔面に無数の傷をもつ、不器用な一匹狼マーヴ。そのマーヴを演じたミッキー・ロークがとにかく素晴らしかったです。格ゲーでいうなら重量級系のキャラクターで、バトーみたいなとこもある。とにかく強いのが見ていて気持ち良い。さらにイライジャ・ウッド演じるサイコキラー:ケビンもすごい。もうすごいとしか言い様が無い。ちなみに、この話のタイトルはあのチャンドラーの「ロンググッドバイ」をもじったタイトルであり、マーヴのモデルは「さらば愛しき女よ」にでてくるマロイなんだそうです。お話のほうもまさにそんな感じ。
2話め「The Big Fat Kill」はスタイル抜群の格好良い女性たちがたくさんで楽しい。主人公ドワイトを演じたクライヴ・オーエンさんはアップの表情がとにかくコミック・ヒーロー的で良かった。そしてデヴォン青木演じる「殺人マシーン:ミホ」も良かった。これも格ゲーにいそうなキャラクターだったなぁ。ドワイトがミホを称して「ミホは神だ、エルヴィスだ」という台詞がよかったです。でもここで一番面白かったのはデルトロさん演じるジャッキー・ボーイとドワイトとの、車の中でやりとり。ここのシーンは特別監督として名を連ねているタランティーノの演出によるものらしいです。
そして3話め「That Yellow Bstard」はブルース・ウィリス演じるハーティガンが主人公。映画の中でも「ミスター高潔」と称されていたりする、まさにハードボイルド・ヒーローといえる役。ジェシカ・アルバとのプラトニックな関係とその結末も泣かせる。台詞もいい。ブルース。
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とにかく全体的にとても格好のよい、少々スタイリッシュすぎる気もするくらいのエンタテインメントに仕上がっていて、テンポが良くて飽きさせない。マンガで言えば見開きとかで表現されるような「きめ」のシーンもばっちり。例えば「チャーリーズ・エンジェル」なども新しいアクション描写の形の1つであったと思うけれど、やはりどうしてもワイヤーアクションだなぁという醒めた目を伴ってみてしまう。また、生身の人間の動きをキャプチャーして描かれたデジタルアニメーション「アップルシード」でも、アクションシーンは素晴らしかったと思うけれど、どうしてもアニメ画と人間らしい動きがかみあってない部分があった。
しかし「シン・シティ」にはアニメやマンガにおける視点の自由さと、生身の人間が演じるからこその感情の演技と動きの重さがあって、しかもそれが全編に渡って続いているというのがとにかくすごいと思いました。
あー楽しかった。お腹いっぱいです。