イゴールの約束(La Promesse)

イゴールの約束 [DVD]

イゴールの約束 [DVD]

リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督作品/1996年
先日見た「ロゼッタ*1が母娘の関係を描いた作品だったのに対し、この「イゴールの約束」では父と息子の関係が描かれる。
ダルデンヌ兄弟の作品の共通点は、もともとドキュメンタリー出身であるということが、その題材や演出に色濃く反映されているということだと思うのだけれど、次に撮られた作品である「ロゼッタ」に比べると、この「イゴールの約束」はもう少し、物語としての演出に踏みこんだもののように感じた。
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主人公イゴールの父親は、不法滞在の外国人を集めて、どうやら彼らの人身売買を行っている。そしてイゴールもまた父親の仕事を手伝って暮らしている。趣味も自分の仕事も犠牲にしなければならない場面が多々あるのにも関わらず、イゴールは父親に忠実だ。父親のように煙草を吸い、父親とそろいの指輪をしたイゴールはまるで父親のコピーであるかのように振る舞う。
しかし、ある「約束」を切欠にイゴールは父親から独立し、自分自身で判断し行動することを選択する。
説明的なシーンはほとんどないのに、主人公の心の動きが、まるで水がしみ込むみたいにして伝わってくるのは、綿密に計算されたシーンの積み重ねによるものなのだろう。そして、だからこそ、ごくシンプルな物語でありながら、その印象はとても奥深い。
ロゼッタ」と続けてみてみると、両作品ともに、監督は「何かがはじまる瞬間まで」の物語を描いているような気がした。状況は何も変わらなくても、人生は自分自身からはじめる事ができる。なんて言葉にするととても楽観的に感じるけれど、主人公はたぶん、その先に待っているものの重さを理解している。だからこそその一歩が物語になるのだと思った。
ほんとうに、素晴らしい監督だと思います。
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ただ、イゴールの父親に対する思いは、男の人が見たほうがもっと切実に感じるものがあるんじゃないかなと思う。それから、物語の中に出てくるアフリカ人の女性の、頑な民族意識、例えばイゴールにはなかなか心を開かないが、病院で知り合った同じ民族の女性にはあっさりと心を開くシーン、などもとても印象に残った。確かダルデンヌ兄弟は移民についてのドキュメンタリーを撮っていた、とどこかで読んだことがあるのだけど…実際のところはちょっとわからない。新作が公開になったら情報も増えるだろうし、調べてみようと思う。

*1:id:ichinics:20051022:p1