流浪の手記/深沢七郎

「言わなければよかったのに日記」を読んだ時に、後書きで尾辻克彦さんがこの「流浪の手記」について書かれていて、読んでみたいと思ってたの、お借りして読むことができました。面白かった、と一言でいうことはできなくて、実際はいろいろと複雑な気持ちになったんだけど、やっぱり読みはじめれば、面白くって、つい笑ってしまうような部分もたくさんあった。
ただ、「言わなければよかったのに日記」にあった明るさのようなものよりも、この人自身の切実に触れるような部分が、たぶんこのエッセイには多くて、そこをかいま見る/見たような気になるたびに、なんだかしんとするきもちになった。
深沢さんのエッセイを読んでいると、自らという一枚で思い考えるの視線に驚き、読みすすめるうちに、この柔らかくあっけらかんとした深さ、というか、その一筋さに、およばないということを思い知る。翻るようでいて、それは解けない。もともとの、ただある淋しさを思い出す。

みんなオカシクてたまらないんだ。おいらが気持ちがいいことは、ちょっと、まあ、淋しいような時だ。淋しいときはオカシクなくていいねえ、銀座の千疋屋のパッション・シャーベットのような味がするんだ。淋しいって痛快なんだ。/p161

唐突に、「私の言語の限界は私の世界の限界を意味する」という言葉を思い出したりした。
なんて感想をもし本人に言ったなら、すごい顔しかめられそうな気がするなーとか思いつつ。
ついさっき、この感想かきはじめるまえに、「言わなければよかったのに日記」の感想読み返したら、なんだかちょっと照れくさくなってしまったのだけど、とにかく私はこの人がとても好きだなぁと思う。

流浪の手記 (徳間文庫)

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