男女3景

朝、電車の中に、きれいな水色の着物を着たお母さんと優しげなお父さんとスーツ着た男の子がいて、七五三かな、でも七五三で季節とか関係あるんだっけ…とか思いながら見ていた。どうやら、お母さんが少し機嫌が悪くて、お父さんは息子にちょっかいだすことで丸くおさめようとしてるみたいだった。電車が開くと男の子だけ勢いよくかけてく。地下鉄って少し息苦しいよねと思った。

昼下がり、隣に座っていたカップルの男の子の方が、女の子に「世の中には理不尽なことってたくさんあるから、いまのうちに、そういうことがあるってことを体験しとくのはいいことだと思う」みたいなことをたんたんと語っていた。確かに、理不尽なことってたくさんある。でもなんでなんだろう。それを解決しようって気がおこらないのは、期待していないってことに近くて、だからたとえば仕事とか、ある目的を優先するためのあきらめなんだよなあ、ということを考える。それはけして悪いことではないし、きっと必要なときもあると思う。それはたぶん自分にやさしくすることの方に近い。手の届く範囲はそう広くはない、と思いながら、どこかさみしい気持ちもあるのは、なんでなんだろう。

夜、向かいには老夫婦が座っていた。「音量の調節の仕方がわからない」といって、女の人が、隣の男の人に iPod を手渡す。男の人は眼鏡を(老眼鏡かな?)をずらして、どれどれ、とタッチパネルをぐるぐるしはじめた。あああああ、と思って見ていたら女の人が「うわっ」と言ってイヤホンを耳から引っこ抜き、「びっくりした!」と、笑った。男の人も「ごめんごめん」と目を合わせ、笑いあうのを見て、なんだかちょっとうれしくなった。