新しき世界

雪と雪の間くらいに見に行きました。
かなり話題になっていると思うので、ある程度内容にも触れてしまう感想になると思うのですが、どのくらいストライクかは人によるとはいえ、気になっているのならぜひとお勧めしたい映画だと思います。

この映画を見終わってしばらくたったいまも繰り返し思い返すのは、とにかくあの、ある場面で登場する「チョー嬉しいよ」という字幕の素晴らしさです。もちろん実際の俳優さんの言っている言葉がわかればそれに越したことはないのですが、ここに関しては「チョー嬉しい」という書き方をすることによる感慨というものが確実にあったように思う。
物語に配置されたメインキャラクター3人(ジャソン、チョンチョン、ジュング)はある種記号的ともいえる描かれ方だったけれど、それを嘘っぽく見せない3人の役者さんは本当に魅力的だった。
「新しき世界」は、たぶんいろいろと比較されていると思うのだけど私が大好きな「インファナル・アフェア」と近い潜入捜査もので、でも決定的に違う、のはインファでアンソニー・ウォンが演じていた、主人公が潜入捜査官であることを「知っている」立場の人物の描き方だと思う。
この立場の人物を「新しき世界」ではチェ・ミンシクが演じているわけだけれども、主人公は潜入先の方に肩入れしてしまうという傾向は物語のはじめからあって、だからはじめからチェ・ミンシクは信用ならないやつだった。最初はせっかくの潜入操作ものなのだから、もっと主人公の正義心を煽ったりしなくてもいいのかな…などと思ったりもしたけれど、最終的にジャソンが下した結論の説得力を描いた映画としてこの作品は成功だったのだと思います。
その説得力とはつまりあの「チョー嬉しいよ」であって、あの一言を主人公がこの先繰り返し思い返すのだろうと思うとそれだけで最高に切ない。

ちなみにチェ・ミンシク以外は初めて映画を見た役者さんだったので、最初はジャソン、チョンチョン、ジュングの順で、松重豊貴乃花石井正則と覚えて見ていました。

 クラリッサ

1、2月の締切やら楽しみにしていた予定やらがあらかた終わってしまい、気が緩んだのかそれとも花粉のせいか、今週はやたらとだるい月はじめだった。年明けから読みはじめた文庫本もまだ読み終わらない。かといって面白くないわけではなく、むしろこの2か月はずっとその視線の中にいるような気がしている。感想は改めて書くつもりだけど(といってちゃんと書きたいリストは伸びて行くばかりなのだけど)「めぐりあう時間たち」の小説を読んで*1、映画*2を見て、いつかはと思っていた本なので、どうしてもその登場人物たちがこの物語に対して抱いていた思いを通して読むことになり、二十三重にフィルターがかかっているような気持ち。
本を読むのは、家の中よりも外が多いのは、本を閉じてそこに書かれていたことを思い起こしながら帰るのが好きだからだと思う。でもこの数年、駅からの帰り道はいつも自転車なので、その楽しみも半減している。自転車は便利だけどあまり考え事にむかない。考えるのスピードにはやはり歩く早さくらいがちょうどよくて、だからもっと歩かないといけない、と大雪が続いて必然的に自転車に乗れなかった期間に思った。
雪の日の夜、人も車もいない道の真ん中を歩くのはとても楽しかった。舞台(「国民の映画」)を見た帰り道だったので、その中の登場人物1人ずつについて、あの人はどういう人なのだろう、ということをじっくり考えることができた。その舞台の上でも外は雪で、照明が落ちる前から遠くで、吹雪の音が聞こえていた。音が近づき、照明が消えると同時に舞台が始まる。それは眠りに落ちる感覚とよく似ているように思った。

ダロウェイ夫人 (集英社文庫)

ダロウェイ夫人 (集英社文庫)