サマーバケーションEP/古川日出男

サマーバケーションEP

サマーバケーションEP

井の頭公園からはじまって、神田川をたどり、海へと向かう物語。川の流れは絶えずして結んだりほどけたりを繰り返し、川に伴って旅の仲間も増えたり、減ったりする。
生まれつき人の顔を見分けることができない、という主人公の話に既視感を覚えたのは、彼と最初に出会うウナさんのそれと同じ理由だった。顔のない少年の物語。「アビシニアン」だったか「沈黙」だったか、ここはそのどちらかとひと続きの世界なのだろう。懐かしい、と思い、あんなに前に読んだ物語なのに、そして記憶力の悪い私なのに、この人の物語はちゃんとひっかかってるのだな、と思った。
そして冒険。ロードムービー。彼はその自由のはじまりに冒険を選ぶ。神田川を辿って月島ふ頭へと至るその道のりには私の知っている道もたくさんでてきて、時にはまさにそこから数分の場所で、この本を開いていた。だから今、そこにいけば彼らに出会えるような気分になって、ページを捲るのも楽しかった。
私も、いつかこの道のりを辿ってみたい。夏に。
主人公は、山下清さんに、ちょっと似ている。