流れ星が消えないうちに/橋本紡

流れ星が消えないうちに

流れ星が消えないうちに

橋本紡さんの本を読んだのははじめてで、しかも恋愛小説を読んだのも久しぶりだったから、なんだかちょっと照れくさい。でも、すごくすんなり入ってくる、酔いざめの水みたいな文章は、読んでいて気持ちがよかった。
物語は、恋人を亡くしてから玄関でしか眠れなくなってしまった女の子、奈緒子と、その恋人、巧、二人の視点から交互に描かれる。旅先でなくなってしまった加地くんを間にはさんで向かい合う二人の、再生の物語、なんて一言でいってしまえばシンプルなのだけど、その道筋と思い出が折り重なって見えてくる部分が、そこにはいない加地くんの存在を色濃いものにしていて、ふたりが好きなそのひとを、いつのまにか好きだなと感じていたりする。
いなくなってしまった人を、思い出すことでつながっていく様子が、よかったです。
ただ、この作品のように、視点が交互にかわる物語では、冒頭にくるキャラクターに感情移入しがちなのだけど、この作品の場合、読みながら私が感情移入していたのは冒頭の奈緒子ではなく、巧くんだった。ラストが奈緒子で終わっていることからも、あくまでも主人公は奈緒子なのだと思う。けれど、その割には彼女の巧くんに対する心が、すこし分かりづらいようにも思えて、巧くんに感情移入している自分としては、すこし寂しく思ったりもした。

ところで、カジくん、という名前のせいか、読みながらずっと頭に浮かんでいたのは南Q太さんの「スクナヒコナ」だった。あの、カジくんの場面は衝撃的だったけど、すごく印象に残っていて、なんか切ないです。