季節

どこかで、沈丁花のにおいがして、春だなあと思った。沈丁花といえば、たしか家の玄関にも咲いていたはずなのに、いつの間にかなくなっていたことを、思い出す。
幼い頃、あの沈丁花にケーキが咲く、というか、ケーキがなる夢を見たことがある。6人(6人家族だから)ぶんつんで、冷蔵庫に入れておいたのだけど、気づいたら全部なくなっていて、「ごめんね食べちゃった」「別にいいよ」「つんでこようか」「もういらない」とかいって泣く夢。小さい頃に見た夢ってそんなのばっかりな気がする。我ながら意地っ張りというか、くらい。

ちょっと前に読んだ「ビッチマグネット」は、そのあらすじはともかく「架空の物語っていうのは、本当のことを伝えるために嘘をつくことなのだ」という文が気に入って、
それを私は、取り出して見せることのできないようなことを、それでも伝えたいのなら、方法を考えなくちゃいけないということだと思った。
うまく言えないことを言おうとして遠ざかってしまうとき、あせって言葉を探してもうまくいかない。だったら他の方法探さないとって、思って、少し気分がよくなる。

電車が減速して、並走する電車の、その窓の向こうにもたくさんの人がいるのを見る。目が合っても表情をかえる人は少ないのに(私もそうだ)、ふと会釈をしてみたりすると、あわてて目をそらされるのはきっと、その瞬間まで風景だったからだろう。
路面を走ると、ちらほらと花が咲いていることに気づく。沈丁花の後に植えるなら、コデマリかなーとか考えていて、季節の変わり目はなんか体調悪いけど、春がくるのは嬉しいなと思った。