あいやのおじいちゃん

小さい頃、母方の祖父のことを「あいやのおじいちゃん」と呼んでいた。おじいちゃん、と呼びかけると「あいや」と答えるからだったのだけど、大人になって「…おじいちゃん」と呼ぶ「…」の一拍で少し照れてしまう私にも、おじいちゃんはやっぱり「あいや」と答えてくれた。
逃げたインコを虫取り網で捕まえるくらい活発な祖母に比べると、祖父はいつも穏やかに笑っている人だったと思う。はさみ将棋だって五目並べだって私が飽きるまでつきあってくれた。恰幅がよく、いつもサスペンダーをしていてた祖父のズボンは、幼い頃の私が2人は入るくらい太くて、そういえばおじいちゃんの服はいつも、タンスを閉めるときに隙間から、ふっ、て漏れるあのにおいがしたのを思い出す。

先月、祖父の葬儀があった。
天気の良い日で、親戚みんなで弁当を食べた、部屋の中は西日でいっぱいだった。皆少しだけ笑って、忙しそうに動いているのがなんだかきれいで、気が遠くなった。式の冒頭で流れた、従兄の作った映像には楽しそうな祖父がたくさんうつっていて、本当に、幸せそうだなと思った。
いい式だった。
挨拶をしてくれた方が皆、誠実で穏やかな人で、と言っていたのがとても印象に残り、誇らしい気持ちになる。人見知りの父が、それでも親族の席に並びぎこちなくお辞儀を繰り返しているのを見て、少しほっとする。

帰り道、SAに寄って、閉店間際の食堂でご飯を食べた。大きな窓の外は真っ暗で、明るい食堂内ががらんとして見えた。私が「ラーメンおいしいね」と言うと、同じものを食べていた父は「水がおいしい」と言っておかわりをした。お土産やを冷やかし、車に戻る。
車に乗ると弟はすぐ眠り、それを見て私たちは笑った。花のにおいがする真っ暗な車内で、そういえば祖父と最後に話したとき、もっとたくさん文章を書いたほうがいい、と言っていたのを思い出していた。