「ひきだしからテラリウム」/九井諒子

ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

新刊が出るたびになんでこんなに好きなのか…という気持ちになる九井諒子さんの新刊。1つの話を読むごとに、余韻に浸りたくなるくらい余すところなく大好きです。
この本は33もの掌編をあつめた作品集になっています。これまでの作品集同様、SF、ファンタジー、コメディ、シリアスなど、様々なタイプのお話が詰まっていて、これはすごく絵の上手い人だからこそできることだと思うのだけど、お話によって文体を使い分けるように、絵柄を使い分けているのがすごい。
そして、33ものお話が、まるでひとつの世界をいろんな角度からみたもののようにつながりあっているように感じられるのは、たぶん作者の視線がブレないからなのだと思います。
例えば『えぐちみ代このスットコ訪問記』は、ひとつのお話を「旅行記を描いている漫画家」と「旅先の少年」2つの視線を交互に描いているのだけど、観光客に笑われていると感じている少年の心の動きと、スットコ訪問記ののんびりした視点の落差にひやひやしつつ、結末は少し笑える場所へと導いてくれる、この語り口の鮮やかさは信頼せざるを得ないと思うわけですよ…!
本当に読んでいて楽しい。大好きな漫画家さんです。
あえて例を挙げるのもなと思うんだけど、高野文子さんの漫画や、藤子・F・不二雄のSF短編集が好きな人はきっと好きだと思います。