立喰師列伝

ichinics2006-04-10
押井守による日本戦後昭和史を立喰師という額縁から描く。という奇妙な(?)作品。
そのクロニクルは、インチキかもしれないけど、それはいわば押井守の世界の真実なわけで、インチキだ! と言われることすら既に作品の中に取り込まれているというかなんというか。狐につままれる感じで、だんだんと「立喰は体制へのテロだ」ということが理解できるような気になってくる。そして実際、そこはうまく現代史と重なっているように思えた。もちろん、押井監督ならではの視点であるというとここそを楽しむべきなのだけど。吉本隆明さんの文章がところどころに挿入されるのが印象に残った。
物語を盛り上げる山寺宏一さんの口上はさすがに美しく深く緊迫感のあるもので、そこにのせられた嘘と真とパロディの入り交じった物語にのせて物語はどんどん進む。映像はペープサートを進化させた「スーパーライヴメーション」によるもので、思った以上にテンポがよかったです。
「見栄を切る」ような格好良い場面がこれでもかと押し寄せてくるのがまたグッとくる。
まあ、かなり押井守押井守による押井守のための映画」な(とこはある)ので、押井監督のファン以外が楽しめるかどうかは私にはわかりませんが、作るのは楽しかっただろうなぁーというのも、しみじみ伝わってきます。
あ、あと神山健治監督の眼鏡男子っぷり、寺田克也さんの薄幸っぷり。吉祥寺怪人さんのサラサラヘアー(CGだと思いますが)なども見どころ。個人的には牛魔王が良かったです。あ、あと「パン屋再襲撃」が出てきたときには「そことのつながりには全然気づかなかった…」と思いました。
個人的には「元ネタわからないと面白くないかも」系のお話はあんまり好きじゃないのですが「立喰師列伝」に関しては、敢えて他人におすすめしようとは思わないものの、個人的には楽しめました。なんかもう「楽しそうな押井監督」を思うだけでお腹いっぱいな感じです。そんなにファンなのか私。
公式 → http://www.tachiguishi.com/top.html

 暗い僕と彼女

スタジオボイスにのってたフィッシュマンズ特集をちらりと立ち読みしていたら、それぞれがカヴァーしてみたい曲を挙げる、という流れがあって、そこで佐藤君があげていたのが「トランジスタ・ラジオ」だった。RCサクセションの名曲。

うー 授業をサボって
日の当たる場所に いたんだよ
寝転んでたのさ 屋上で
タバコの煙 とても青くて
内ポケットにいつも トランジスタ・ラジオ
彼女 教科書 ひろげてるとき
ホットなナンバー 空に溶けてった
トランジスタ・ラジオ』

屋上で寝転んでいる男の子と、教室で教科書を広げているであろう女の子。
そういえば、私の大好きな曲の中には、こんな風に「好きな子との対比」を描いたものが多いような気がする。

ただただ楽しい あなたが好きさ
暗い僕を 盛り上げるからね
『チャンス』

一般論にする必要なんてないけど、もしかして、ある種の男の子というのは、自分と「違う」ということに心強さを感じたりするものなのかもしれない。そういえば以前、「健康さ」が好きだと言ったひとがいたけど、あれも、もしかしてそういうことだったのかなぁ。
なんて考えていたら、この情景を女の子の側から描いた場合、自分との異なりより「共通点」の方に目がいく物語の方が多いような、気がした。個人的には、性別が違うなんてこと以前に、それぞれ違うだろうと思うけど、似た者に惹かれる傾向は確実にある。
ただ、なんとなく男の子の「理解されたい/でもされたくない」みたいな葛藤もわかるような気はして(共感とは別に)、それは上に挙げた歌詞の雰囲気の中にも、ちょびっと感じるものだったりする。うまい例が見つからないのだけど、わかるはずがない、けどそれがいい、みたいな。
でも例えば、『チャンス』の数年後に書かれた歌詞を見るとこうある。

死ぬほど楽しい 毎日なんて まっぴらゴメンだよ
暗い顔して 2人でいっしょに 雲でもみていたい
『DAY DREAM』

このふたつの歌詞には、すごく距離があるような気がする。
でもそれを考えるなら、ここからじゃない方がいいような気がするので、何か良いたとえが見つかったら改めて。
でもなんとなく「負けたくない」から「負けたい」へ、という感じかなぁって気がしている。