絵描きの植田さん/いしいしんじ・植田真

絵描きの植田さん

絵描きの植田さん

いしいしんじさんの中編小説に、植田真さんの絵が挿入された作品。挿絵ではなくて、共作という形だと思います。絵と、文章と、どちらが先に描かれたのかが気になる。
ストーリーはシンプルで、現実的な部分が多く、いしいしんじさんの作品の中ではちょっと異色かもしれない。物語の展開の仕方は、あまりにも正攻法だったので、正直なところ、ちょっと物足りなく感じました。けれど、とてもやさしい、繊細な文章はいしいさんらしく、物語の中に漂う静かでゆっくりとした時間を楽しむことができた。
植田真さんの絵を、主人公である植田さんと重ねて読んでしまうとちょっとイメージと違う気もしたけれど、とても素敵な絵なので、なんども見て楽しめる本だと思います。
物語の舞台が雪に覆われた町で、本の作りも雪のような白を基調にしている。そういう凝り方も、いいなぁと思いました。本から雪の匂いがしそう。ちなみに装幀は鈴木成一デザイン室。またかー。
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植田さんの雰囲気に、小川洋子さんの「ブラフマンの埋葬」を思いだしたりしました。