「あなたの人生の物語」/テッド・チャン

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

タイトルにそそられて買った短編集。難しくて理解しきれなかった作品もあったけど、特に後半に収録されている作品がとても面白かったです。時間を置いてもう一回読み直したいと思う。
イーガンと比較されているのを何度か見たことがあったのだけど、個人的にはもう少し印象が柔らかいように思った、けれど、それは訳者の印象かもしれません。特に「顔の美醜について」の生き生きとした言葉づかいは、って今確認してみたら、やっぱり浅倉久志さんだった。

特に印象に残ったのは「地獄とは神の不在なり」という短編でした。神が「いる」という世界を舞台にした物語で、しかも天使の降臨がほとんど災厄のように描かれている。っていうとイメージするのはキリスト教で、あとがきにも「ヨブ記」がアイデアのもとになっていると書かれていたけれど、とくに宗教を限定しなくても「神を信じる」とはどういうことなのか、という話としてとても面白かった。それで思い出したのがグレアム・グリーンの「ことの終わり」で、ラストがいまいち思い出せないものの、読み終えたときの驚きは近かったような気がする。
それから「顔の美醜について」。これは人の容姿についての価値観をフラットにする「カリー」という美醜失認処置をめぐるドキュメンタリー風の短編。先にも書いたけれど、さまざまな語り口を訳しわける浅倉久志さんの訳が読み心地の良い作品だった。
そして、読んだ人に感想を聞いてみたくなる話でもある。人は他人を差別する。その差別の基準について、作者自身が自らを疑っていることが覚え書きからもわかる。そこが、文章の端々に見える潔さの所以なのかなと思った。テーマはたぶん、ティプトリーの「接続された女」に近い。
そして表題作については、このアイデアを物語にできるっていうことが、すごいと思った。とはいえ、ちゃんと理解できているのかあやしいのだけど、読みながらずっと思い浮かべていた作品のことが、作者による覚書に登場しているのを見つけて嬉しくなった。

 四畳半、たましい、夏

楽しみにしていた木曜日夜の「四畳半神話大系*1が終わってしまった。とても面白かった。私にしては珍しく、ほとんど全回放送時に見ていた作品なのだけど、全回もれなく素晴らしかったし、最終回をみて、これは全11回でひとつの作品だったんだなとしみじみ思ったりもした。今日原作を買ってきたので、読み終えたら改めて感想書こうと思う。
それにしても、最後の2話の展開は、これまで積み重ねてきたものを混ぜ合わせてラッピングして、開くと新しいものが出てくる手品のようだった。ぐっときた。

ただ、目の前の好機をつかめといわれても、その好機がなんであるのか、これですか、ほんとに?、いやいやまさか、って構えてしまう主人公の及び腰は他人事ではない。そんなだから(略)とか思いつつぼんやりしていた今週、なんかいろいろついてない感じで、友だちと会っても「魂抜けてるねー」って言われてしまい、申し訳なかった。ちなみにマブイは沖縄で魂って意味だと今週知った。グーグルで。

土曜日は買い物に行った。欲しいと思ってた靴を買って、嬉しくて店出てすぐに履きかえる。靴は自分で見えるから楽しくていいよねって思ったけど、見てると足の甲の日焼けが気になって、そういえばこれ、潮干狩りに行ったときのだなとか思い出す。映画を見て帰って、夜はテレビでサッカーを見た。ちっとも風が入ってこない網戸の向こう、夏の夜はリッチブラックっぽい、と思った。

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