息子のまなざし(asin:B0001ZX7VS)

リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督作品
恵比寿ガーデンシネマにて「ある子供」公開記念の特集上映に行ってきました。ダルデンヌ兄弟の作品の中で、唯一これだけは封切りの時に映画館で見てたので、今回スクリーンで見るのは2回目。前は確か、ユーロスペースだったような。
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前ニ作と同様、ダルデンヌ兄弟のカメラは主人公オリヴィエに寄り添っているのだけれど、「ロゼッタ」の視点が客観的だったのに比べて、この作品ではオリヴィエの主観のように感じられる。もちろんそこにカメラがいるのだから、一人称ではないのだけれど、カメラはオリヴィエの表情を主に捉えており、その視線の先にあるものがすぐにはわからないシーンが多いのだ。
それは、そこに何があるか、よりもオリヴィエの心理の移り変わりのほうが、この映画の主題となっているからなのだろう。そして実際、オリヴィエの眼が語るものの方が、言葉よりも多くのことを伝えている。もしかしたら、そこに「何」があるかわからないからこそ、観客は一人称から突き放された場所に立つことができるとも言えるんじゃないだろうか。
作品紹介には「人は聖者にならずに最も憎い人間を受け入れる事ができるのか」というテーマを描いた、とあるのだけれど、これは実際にオリヴィエが受け入れられるのかどうかの問題であり、その相手の行動に拠るものではない。つまり物語の中でも一人称が貫かれているのだと思う。
相手が何を考えているのかを説明されなくても、オリヴィエがどう感じているかが伝わってくることで、ラストまでの道のりは緊迫したものでありながら腑に落ちる。
そしてカメラが引いたところで映画も終わる。またしても突然フィルムが途切れるのは「何かがはじまる」その瞬間だ。その一歩の重さ、ということを「イゴールの約束」を見た時にも書いたけれど、次の作品ではどんな一歩になるのか、とても楽しみです。
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ちょっと気になったのが邦題「息子のまなざし」は、映画を見る前の人にちょっと誤解を招きかねないタイトルなんじゃないかと思う。原題を訳すと「息子」になる。「息子とまなざし」のがしっくりくるけどな。
【過去の感想】