グエムル 漢江(ハンガン)の怪物

ichinics2006-09-17
監督:ポン・ジュノ
面白かったー!
ゴジラシリーズをはじめとして、怪獣映画はわりと見てきたつもりの私も、グエムルにはすっかり圧倒されてしまった。なんといっても、出し惜しみせずに物語のはじめから怪獣がバーンと登場して、暴れまくるとこがいいです。これはどういう意味だとか考えずに、すごい、なんだこれ、うわー! って興奮しながら鑑賞するのが良いと思う。
物語は、ソウル市内に流れるハンガンという大きな川に突如怪物が現れることではじまる。愛娘を怪物にさらわれた父親と、祖父、叔父、伯母は悲嘆にくれているのだけれど、死んだと思った娘から電話がかかってくることで彼女の生存を知り、救出の為に家族が戦うというのが大筋のストーリー。
まず、怪物と戦うのがヒーローではなく、ごく普通の人間っていうのがいい。普通だからこそ、戦いにおいてとことん手際が悪いんだけど、それが映画に笑いと緊迫感を与える効果として生かされてもいる。娘を溺愛するソン・ガンホや、その妹ペ・ドゥナのぼんやり加減、弟パク・ヘイルの元活動家ネタ(やたらと手際よく火炎瓶作ったり)とか、かれらの父親であるピョン・ヒボンの父親っぷりとか、一人一人に独特の魅力があり、そこで交わされるやりとりはどんなにシリアスな場面でも、すこし可笑しくて、楽しい。彼らはかなり貧しい家族であることが伺えるが、全員がいろいろ失うことに頓着せず愛しい娘を救うことで迷いなく一致団結する様はすがすがしく、娘役を演じたコ・アソンの天真爛漫さがその愛され具合を裏付ける。それがうまく描かれていたのが、一家でカップラーメン食べる場面なんだけど、あの台詞のないワンカットワンシーンにはぐっときてしまった。
で、怪物。怪物もすごい。重力感と速さと強さがあり、アップでも引きでも部分でもいける。おぞましさとちょっとした愛嬌が同居する造形と動きは、はじめてエヴァを見た時の感激に近い。いやほんと。そのビジュアルデザインについてはいろいろと物議をかもしているみたいなんですが、私は伊藤潤二さんの「ギョ」に代表されるような歩行魚を思い浮かべました。冒頭に環境汚染で生まれた、という前フリがあるので、「ゴジラヘドラ」みたいな話になるのかと一瞬思ったのだけど全然方向が違った。
終盤数十分では家族が別々の場所にいるにも関わらず、物語はその求心力を緩めることなく走り続ける。そしてラストバトルではそれぞれの必殺技。思わずガッツポーズしたくなるような爽快感…というわけにはいかないんですが、とにかく決めるとこは決める。
たぶんこの映画は「怪獣映画」のお決まり/セオリーから脱するというとこがデーマのひとつになってるんだと思うんだけど(そういう意味では「LOFT」と同じ構図なのかもしれない)、それが上手く怪獣映画のエンタテインメント性を際立たせることになってたと思う。ただ、怪物のバックグラウンドや細菌関連の話などはあくまでも装置としてあるので、その辺のディテールを気にしはじめるときりがないかもしれない。
殺人の追憶』の監督が怪物映画を作ったときいたときは驚いたけど、監督ならではの社会的なテーマ、映画としての試みもあちこちに鏤めつつ、最終的にはエンタテインメントでまとめているところに趣味の良さを感じる。笑えて、恐くて、びっくりして、じーんとする場面もありつつ、ジェットコースターに乗ってるような疾走感も味わわせてくれる。無駄のないテンポの良さ、視覚的な駆け引きの上手さ。ほんと楽しかった。もう一回映画館で見たい。

関連

殺人の追憶』の感想→ id:ichinics:20051211:p1