2016年の空想科学映画「シン・ゴジラ」

最高でした。
こんなゴジラ映画が見たかったんだよーと思うゴジラ映画だったし、こんな庵野監督作品が見たかったよ!と思う庵野映画だった。

庵野監督が樋口真嗣監督と組んでゴジラの新作映画を撮る、という話を知ったのは昨年の4月1日のことで、日付からいって一瞬エイプリルフールなのでは、と思ったりはしたものの素直に楽しみだなと思ったのは、2人の監督が特撮映画の大ファンだということを知っていたのはもちろん、「特撮博物館」で見た「巨神兵東京に現わる」のメイキングがとても印象に残っていたからでした。
ビルが壊れるシーンひとつに気が遠くなるような繊細な仕掛けがあり、撮影後に再生して皆で「これだよなあ」と笑顔を漏らす。
適材適所で最大限の創意工夫を凝らす職人の集まりにぐっときて、ことあるごとに思い出している映像なのですが、このシン・ゴジラは、物語的にも、映画制作側のスタンスとしても、その印象と重なるところがありました。

ゴジラ映画を制作するにあたって、製作発表時の庵野監督はこのように語っています。

ゴジラが存在する空想科学の世界は、夢や願望だけでなく現実のカリカチュア、風刺や鏡像でもあります。現在の日本でそれを描くと言う無謀な試みでもあります。

そして今この言葉を見ると、まさしく「シン・ゴジラ」は2016年の空想科学映画であったと感じます。
2016年にゴジラが現れたとして、人間はどう立ち向かえるのか。そういう映画だった。

制作陣の歴代ゴジラ映画への敬意をこれでもかというほどに感じる作品でありつつ、けしてゴジラファンだけに向けられた映画ではなく、初めてゴジラ映画を見る人も存分に楽しめる作品だと思います。
あと、庵野監督のエヴァシリーズが好きな人で「なんで新作先延ばしにしてゴジラなんだよー」と思った方には、ぜひ劇場でウォッチして欲しい。全力でおすすめします。
できるだけ大きなスクリーンで見るのがいいと思う!


【以下内容に触れますので注意】

いきなり始まってるし、事件の只中に止まったりしない。だるい会議のシーンを描くのにもテンポがよく、だからこそずっと緊張感が続く。
映画を見てる側はゴジラが現れることは知っているわけですよね。だから、楽観してる人々の下りをだらだら描いていらいらさせたりはせず、むしろ楽観が裏切られるシーンを重ねていくことで緊張感は保つという盛り上げ方はとても気持ちが良かった。

それからこれは映画「火星の人」を見たときにも感じたのですが、恐怖や絶望に立ち向かう人々を描くのに、人が泣き叫んだり慟哭したり、愛に目覚めたりする場面を使わず、ただ自分に与えられた職務に邁進する様子が描かれるのもとてもよかった。
愛に目覚めるのが悪いわけではないし、物語の登場人物の中にはそういう人もいたと思う。ただ、ゴジラという圧倒的なものに、個体としては弱い人間がどう立ち向かうかというお話を描く上で慟哭や愛の目覚めはどうしても物語の速度を緩めるし(30秒で脱出しなきゃいけないのに今キスする!?みたいなことはよくある)、この「シン・ゴジラ」はリアリティと速度を非常に大切にしている映画だったと思います。

例えば、役者の顔を見せるために防護服を脱いでたりはしないわけですよ。でもどれが誰だかすぐわかる。役者さんの使い方もとてもうまかったなと思います。
抑え目の演技が続く中、唯一、石原さとみさんだけが場の雰囲気を壊すキャラとして配置されていましたが、あれは何というか、ミサトさんだな…!と思いながら見てました。私はとてもよかったと思います。ヴンダー!というミサトさんとガッジーラという石原さとみさんが重なりました。
とにかく誰か1人が英雄になるわけではなく、適材適所で知恵をしぼり行動をすることでゴジラに現実的に立ち向かうというのがとても熱かった。たぶん「いやこれは現実的じゃないでしょ」という推敲を気が遠くなるほど重ねた上での脚本なんだろうな。最高だ。

メインは政府の人間なので、一般市民の台詞はほとんどないのだけど、例えば、人のいない家電量販店のテレビ売り場に1人残された店員が、テレビの報道に目を奪われている最中に停電する、という場面の絶望感などは非常に印象的だったし、
もちろん携帯カメラで撮影を続ける市民、のようなシーンもありつつ、一般市民を愚かなモブとして描いてないところもとてもよかった。

ゴジラについては第一形態の、これは何だろう…? というところからの、え、まさかこれがゴジラなの!?という新鮮な驚き。予告で見せてたのと明らかにサイズが異なることからの先の不安、という伏線の作り方にやられたなと思いました。
個人的に何より嬉しかったのは、ゴジラとは「畏れ」である……とかいいたくなるシーンでばっちりゴジラのテーマがかかるところです。
パンフレットで、今回音楽を担当された鷺巣詩郎さんが、シン・ゴジラの音楽を担当するにあたってシリーズを見返して「ゴジラ映画である以上、伊福部音楽からは逃れられない」と語られているのが載っていて、ほんとそうだよなと頷きまくりました。怪獣大進撃のマーチもかかるよ!


ゴジラ映画は上の弟が大好きで子どもの頃よくビデオで見ていた…というくらいの知識なので、曖昧な部分もあるのですが、ゴジラ映画といえば、ゴジラと何らかの怪獣が戦う、というものが多いと思います。でも、今回のゴジラは基本戦ってはいません。人間がゴジラという脅威に立ち向かうお話です。そういう意味で画像のコピーにある「ニッポンVSゴジラ」という言葉は正しいし、第一作の「ゴジラ」に最も近い作品だと思う(検索してみると最初の上陸地も初代と同じ品川のようです)。
そういう意味で今回最も滾ったのはゴジラが街を破壊するシーンよりも、最後の「ヤシオリ作戦」でした。
作戦名からいっても「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の「ヤシマ作戦」を思い出す人が多いのではないかと思いますが、作品全体の印象としても個人的には破に近いと感じた。
中でもヴッと声が出てしまったのは東京駅付近でゴジラを足止めするための新幹線爆弾からの無人在来線爆弾ですよ…。あれは鉄道ファンの人の感想を聞いてみたい。あれ思いついたのすごいな…。

そして、そもそもゴジラ映画は「当時社会問題となっていたビキニ環礁の核実験に着想を得て製作」されたもので、今回の映画ではそこが海中に投棄された投棄放射性廃棄物によって産まれたという設定になっています。3.11を経た現代の日本でそのテーマを描くというのはとても難しいことだと思いますが、その点についても監督の覚悟を感じる映画でした。


等々、見所はたくさんあるのですが、情報量が多くて把握しきれてないところもあるのでまた映画館で見たい
本当に面白かった!!!

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