「産まれない世界」と「トゥモロー・ワールド」

「産まれない世界」は、映画「トゥモロー・ワールド」ととても良く似た状況の物語だ。しかし受ける印象はまったく違っていた。
もっとも大きな違いは、「争い」だ。「トゥモロー・ワールド」の世界では移民問題を中心に争いが絶えなかったのに対し、ここで描かれる争いは、まだ子どもがいた時代の奪い合いだけで、後に残るのは緩慢な死だった。

私たちはみなリタイアし、仕事を捨てた。あとを引き継ぐ者はいなかった。都市の機能はじょじょに低下し、やがて完全にストップした。
私たちは家から一歩も出なくなった。ある者は死の床にあり、そうでない者も時間の問題だった。/p264

今思い出しても、やっぱり「トゥモロー・ワールド」には首を傾げてしまうところがあるのだけど、この作品を読んで、それは単なる視点の違いだったのかもしれないと思った。たぶんあの映画の中にだって、このようにじっと暮らしていた人たちがいたはずだ。もうすぐ先に死が見えているのに、なぜ争うんだろう、と思いながら映画を見た私にとって、この世界の提示はとてもしっくりくるものだった。
そしてどうなったか? と言うのは書きません。でも、この「産まれない世界」のラストは、産まれない世界の行き着くところとしてリアルに感じられた。そして同時に「トゥモロー・ワールド」に対して抱いていたわだかまりみたいなものも、とけてったような気がする。
とても短い短編なので、興味のある人はぜひ読んでみて下さい。