接吻

ichinics2008-04-01
監督:万田邦敏
殺人犯として逮捕される男の姿をテレビで見た京子は、「彼は自分と同じ種類の人間だ」と直感する。それが恋なのか、わたしにはよくわからないけれど、人を愛するというのはそのように盲目的な直感によるものなのかもしれない、とか、そんなことを考えながら見ていた。第三者である弁護士からすれば理解できないような行動も、京子にとっては当たり前で、別に理解される必要はないんだな。とか。
だからこそ、ぴったりと重なったと信じていたものがずれていく様はとても悲しかった。手の届かない可能性を知ることで揺れてしまった彼が途方に暮れた顔をする理由がとてもよくわかると同時に、手の届かない壁の向こうで恋人がかわっていくことをとめられない京子が繰り返す「私たち」がほんとうに切なくて、言葉を重ねる毎に、空間に穴があいていくようだった。
京子は関係を「定着」させたいと願っていたのだろうか。それは相手をあらかじめ描いた物語にあてはめようとすることなんじゃないか。でもきっと、彼はそれに応えようとしたのだろう。でも結果的に、それは彼に可能性と限界を見せることになってしまった。そもそも壁の向こうにいる彼には選択肢がないのに/ないからこそ。
ただ、京子が手紙に書いていた「あなたと出会って、私の人生が価値あるものにかわった」という言葉は、最後にはそれが反転したんじゃないかな、と思う。ふきんしんかもしれないけど、彼の、最期の表情はとてもしあわせそうだった。
嘘とかほんととかじゃなく、それは与えられたと信じることでもあるんだなということを思う。これはきわめて個人的に。
とにかく小池栄子さんの表情と、豊川さんの声がすごくいい映画だった。

参考

映画見終わったら読もうと思っていた、makisuke さんの書かれていたこの映画の感想、何度も頷きながら読みました。
http://d.hatena.ne.jp/./makisuke/20080320#p1