- 作者: ミランダ・ジュライ,岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/08/31
- メディア: ハードカバー
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読んでみてまず思ったのは、映画に描かれた世界と、確かに同じ視線から描かれた物語だなということでした。ぐっとくるところがたくさんあって、好ましく思いつつ、とても息苦しい読書でもあった。
この短編集に描かれる人のほとんどは、自分でも気づかない間に、足場のないところまできてしまっているような感じだった。次の一歩をかけるところが見つからないまま、背後にある壁が、もしくは爪先立ちの足元が、落ちそうではらはらする。
行き先がはっきりしないまま車を運転していると、運転しているという実感がわかないものだ。自動車にはオプションで、一か所で足踏みしていられる機能をつけるべきだと思う。(p151)
この本に出てくるひとたちの共通点は、何かを告白したいのでも、解決したいのでもなく、ただそれが許される状況が欲しいだけ、ということに気付いているところじゃないかなと思う。ほんとうはそんなことに気付くべきじゃないし、気付いてもそれをまじまじと見つめる必要なんてないのに、彼らはそれと向き合い、まずは自動車を足踏みさせたいなどと願うことからはじめてしまう。
特に印象に残った物語は「何も必要としない何か」、「モン・プレジール」そして「子供にお話を聞かせる方法」。
どのお話も、それまで続いていたことが「終わる」瞬間で幕を閉じる。しかしそれは妙に清々しい瞬間でもあって、できることなら、このラストシーンの後の彼女たちが、どこか、新しいところにいますようにと思う。
最後の八分になった。もしお客が誰も来なければ、私は“やめる”と叫ぼう。これっきり、もうたくさん、帰らせてもらいます、の“やめる”を。(p128)