「悪の教典」

監督:三池崇史

「他者への共感能力が著しく欠けている」蓮実聖司という教師が、ある学校で大量殺人をするに至るまでのお話。
原作は未読なのですが、予告やポスターで蓮実が大量殺人を犯すということはすでにわかってしまっているので、物語冒頭から、こいつを怒らせちゃだめだ…みたいな気分で見ることになる。そして、それはこの映画を楽しむ見方としてはよかったんじゃないかなと思いました。
というのも、例えば全く内容を知らずに見て驚くような「豹変」シーンがあるわけではなく、どちらかというと、平穏に見える日常に亀裂が入っていく様子をギリギリまで映し続ける緊迫感を見せようとしている気がしたからです。
ただ、だからこそ蓮実は「そういうもの」として見れるけれど、この映画単体では彼がどういう人なのかいまひとつわからないような気がしました。それは例えば「ノーカントリー*1のシガーのような得体のしれない恐ろしさではなくて、俺の目的は快楽殺人ではない、というようなことを言わせてしまったことで、じゃあ何かあるのかなと思ってしまったことにあるんじゃないだろうか。
ただ、それでもキャラクターに説得力を感じられたのはひとえに主演の伊藤英明さんがはまってたからではないかと思います。無表情から笑顔への落差がこわい。ある教師が「センサーが反応しない」ていう表現が説得力があったし、何よりラストシーンの妙な踊りはちょっと忘れられないインパクトがあった。

対して生徒は全体的にキャラクターとしての印象が薄かったように思う。ヒミズでも共演していた染谷将太さん、二階堂ふみさん、そしてその2人と行動をともにする浅香航大さん(桐島にもでてた)の3人が演じるキャラクターは存在感もあってよかったのだけど、それもどちらかというと役者さんの存在感にたよっているようなところがあって、その他数人を除いては顔と名前が一致せずに終わってしまった。
それはたぶん映画の視点が基本的に蓮実にあるからだとも思う。
でも映画の視点が、これから大量殺人を犯す側の人にあるって、ちょっと不思議だなとも思いました。
例えば、たぶんこの映画と比較されることも多いであろう「バトルロワイヤル」は生徒一人ひとりの群像ものでもあったところが面白かったと思うんですよね。だから見る人それぞれに気になるキャラクターがいたと思う。
でもほぼ蓮実に視点がある映画の中で、彼がある見落としをしたことに気づいた瞬間(あれはちょっとあからさますぎると思うけど)なんだか、ピンチのような気分になってしまって、いやいや…ってなりました。かといってもっとやれって気分になるわけでもなく、いまひとつ、どこを中心に見ていいかわからない映画だったように思う。
これは原作を読んでみたいなと思います。