両方見るとより楽しい! 舞台「キンキーブーツ」と「ル・ポールのドラァグ・レース」

舞台「キンキーブーツ 」を見てきました*1
見てる間中ずっと楽しくて幸せで、そんな気持ちが目から溢れてしまうくらい、最高の最高に楽しかったです。
2016年版(一回だけ見に行けました)ももちろん素晴らしかったのだけど、今回はさらにキャストの魅力がパワーアップしていたように感じます。
本当に目が足りなくて、ずっと見ていたかった…。

初演の頃はまだドラァグクィーンがどのような存在なのかほとんど知らずにいたのですが、今回は「ル・ポールのドラァグ・レース」(ドラァグ・クィーンのリアリティ番組)にはまっている最中と言うこともあり、なるほど!と思うところも多かった。
そんなわけで、浅い知識ではありますが、せっかくなので、私が感じた「キンキーブーツ 」と「ル・ポールのドラァグ・レース」両方見ると楽しいと思うポイントを中心に、感想を書いておこうと思います。

〈キンキーブーツあらすじ〉

イギリスの田舎町ノーサンプトンの老舗の靴工場「プライス&サン」の4代目として産まれたチャーリー・プライス(小池徹平)。彼は父親の意向に反してフィアンセのニコラ(玉置成実)とともにロンドンで生活する道を選ぶが、その矢先父親が急死、工場を継ぐことになってしまう。
工場を継いだチャーリーは、実は経営難に陥って倒産寸前であることを知り、幼い頃から知っている従業員たちを解雇しなければならず、途方に暮れる。
従業員のひとり、ローレン(ソニン)に倒産を待つだけでなく、新しい市場を開発するべきだとハッパをかけられたチャーリーは、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラ(三浦春馬)にヒントを得て、危険でセクシーなドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”をつくる決意をする。
チャーリーはローラを靴工場の専属デザイナーに迎え、ふたりは試作を重ねる。型破りなローラと保守的な田舎の靴工場の従業員たちとの軋轢の中、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出して工場の命運を賭けることを決意するが…!
ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」公式サイト

ドラァグレースについては、こちらに書きました。
ichinics.hatenadiary.com

ローラとエンジェルスについて

再演とはいえ初めて見るお客さんだって多いはずなのに、ステージにローラが現れたとたんに割れんばかりの拍手喝采になるのがすごかった。それによって、演出が途切れるわけではなく、その喝采がまるで「ローラ」を待っていたクラブのお客さんのもののように感じられて劇場の密度ぎゅっと濃くなる。これはやっぱり、三浦春馬さん演じるローラの迫力によるものだと思います。
ドラァグレースではドラァグスーパースターの条件として「charisma uniqueness nerve and talent」が掲げられていますが、ローラはその全てを兼ね備えているな~と思いました。

ドラァグレースはアメリカの番組なので、キンキーブーツの舞台となるイギリスのドラァグクィーン事情や日本のドラァグ文化とは異なる部分もあるかと思いますが*2、ローラとエンジェルスの関係については、先輩格のローラを中心としたドラァグファミリーに近いものなのかな?と思いました。
そう思って見ていると、ローラが一番細くて高いヒールを履いてるのも、このチームのドラァグマザーであり女王だから、って感じがしてかっこいいです。(もちろんそれで歌もダンスも決めてくる三浦春馬さんがすごい)

ドラァグクィーンとデザイン

「キンキーブーツ 」の1幕、チャーリーがローラをデザイナーにスカウトする場面で、「スパンコールとグルーガンで夢の王国を作ることならできるけど(大意)」みたいに返す場面は、ドラァグレースにもよく出てくるやりとりです。
ドラァグクィーンは「着飾る」存在だし、だからこそドラァグレースでも衣装作りは重要な課題として位置付けられています。でももちろん全部のクィーンがミシンを使えるわけではなく…。
そこで登場するのが「グルーガン」。DIYなどでもよく使われる、接着剤を熱する道具で、溶かした接着剤が固まることで強力な接着ができる…というもの。ドラァグレースでは、なんとこれだけでゴージャスなクチュールドレスを作ったクィーンもいました。


season6に出演したベン・デラ・クリームのこのドレスがグルーガンで作られたもの…!

そして「スパンコール」…! ドラァグレースでは「sequin(シークィン)」という呼ばれ方をしていることが多い気がしますが、スパンコールでグリッターなドレス、というのがランウェイテーマになるくらい、ドラァグでスパンコールは大事な素材です。
そして彼女たちがキラキラを愛しているのを見るたび、それをまとうことが夢を生きることに重なって見えてグッとくるのです。
だからこそ、チャーリーが何度も靴の作り直しを命じる場面、ついにヒールがキラキラしたのを見た瞬間、めちゃくちゃ綺麗で感極まってしまいました…。

ドラァグクィーンと家族

劇中、ローラが周囲に合わせるために「ローラ」を封じて現れる場面があります。ローラの「向かうところ敵なし」のパワーから一転して、自分の「らしさ」を封じた状態がいかに心細く居心地の悪いことなのかを見せる。それによって、彼にとってローラがどれほど大事なものなのかがよくわかる重要な場面です。
その後、チャーリーとローラがお互いについて打ち明けあい、共通点を見出すのですが、そこで歌われるのが「not my father's son」という曲。2人とも、父親の理想の息子になれなかったと考えていて、それが後悔であったり心に負った傷だったりする。

ドラァグレースでも、クィーンたちがこんなふうにお互いについて打ち明けあう場面がそこここに見られます。そして、ローラと近い体験をしているクィーンが本当に多いことにも驚かされます。
それでも、知る人が増えていけば、受け入れることが当たり前な社会へと変わっていくという期待はある。「キンキーブーツ 」も「ドラァグレース」もそのための1歩になっている作品なのだと思います。

ドラァグクィーンとランウェイ

靴のデザインをする物語なので、ラストシーンがランウェイなことに何の疑問も持っていなかったのですが、RPDRを見ていると、ドラァグクィーンの文化にとって「ランウェイ」はとても重要なものなのだとわかります。
RPDRは、80年代ハーレムのゲイカルチャーから生まれた、ダンスやファッションで競いあう「ボール・ルーム」というイベントを元にしているそうですが、
ローラがデザインの実力を発揮するのも、ラスト、ランウェイを盛り上げて見せるのも、おそらく彼らがそのような文化の中に生きてきたからなんだなと思いました。

ちなみにドラァグレースでは、ヒールが低いと必ず審査員に「ずいぶん弱気ね?」などとツッコミが入ります。でもローラのヒールはル・ポールだって褒める高さだったと思います。あのピンヒールであれだけ踊るのは本気ですごい…。クィーンの中には「もちろん靴の中は血まみれよ」とか「踊っても脱げないように靴の中にテープ貼って固定するの」なんて人もいます。それでもヒールを履くのは、それが最高にかっこよくなるために必要だからなんですよね…。

ドラァグクィーンとは?

初めてキンキーブーツを見た頃は、ゲイカルチャーの中から生まれたものであるということは知っていても、彼らが何を求めて異性装をするのか、正直なところよくわかっていませんでした。
けれどドラァグレースを見ているうちに、それは単なる「女装」ではなく(中にはトランス女性もXジェンダーもいるし)、自己表現であり、自由になるための第一歩なのだと感じるようになりました。
ドラァグをやる理由はもちろん人それぞれだけど、ドラァグキャラクターは自分のペルソナだと語るクィーンは、少なくともRPDRの中では、特に多い気がします。
そうやって自分の理想を具現化して生みだした「クィーン」だからこそ、皆最高に美しい自分を誇らしく思っているんですよね。その様子が見ていてとても気持ちが良い。
私の推しクィーンは「ウィッグはヒーローマント」だと語っていましたが、現実に立ち向かうために、ウィッグやスパンコールで自分を飾ってハイヒールで歩きだすというのは、「キンキーブーツ 」のローラのあり方とも共通しているなと感じました。

キンキーブーツを好きな人にぜひドラァグレースをみてほしい!

いろんな人のドラァグレース感想が読みたい!という私の下心なのは最初に白状しておきますが、このダンスパフォーマンスはキンキーにおけるローラとエンジェルスたちのパフォーマンスにちょっと近いとこあると思うのでぜひ見てほしいです。

youtu.be
ちなみにこれはドラァグレースS7の最終回(優勝者の発表)前のパフォーマンスなので、S7のハイライトのリミックスが音源になっていたりしますが、彼らもそれぞれドラァグレースに出場しています(アリッサ=S5、シャンジェラ =S2とS3、ラガンジャ=S6)。

最初に出てくるアリッサ・エドワーズ(私の推しです)と、そのショーを手伝ったりしているドラァグドーター(というよりシスターかもしれない)のシャンジェラとラガンジャ3人のパフォーマンスです。
この関係性もローラとエンジェルスにちょっと近いところがあるなと思ったのと、ピンヒールでランウェイを使って踊りまくるかっこ良さが近いのではと思いました。それから、2分くらいのとこで出るスプリット(立ったまま開脚して床に落ちるドラァグクィーン定番の決め技)はキンキーのエンジェルスもやっていましたね!

ドラァグレース本編はランウェイが中心ですが、ダンスや演技、歌のチャレンジもありますし、その準備をする作業部屋でのクィーンたちのやりとりを見るのも楽しいです。

最後に

ドラァグ周りのことばかり書いてしまいましたが、もちろんローラとチャーリーを取り巻く人々も皆素敵。特に好きなのはソニンちゃん演じるローレンが恋に落ちちゃう場面。あんなのもう好きになるしかないし、それでいてニコラを悪役にしないのもこの舞台の好きなバランスです。
それからドンとローラの対決シーンの演出もめちゃくちゃかっこいい。クィーンの足でリング作るのもお尻にゴングがついてるのも最高にキュートだし、ローラが何をしたのか、エンジェルスがちゃんと把握して動いてるのもよかった…。
ほんと出てるキャラクター皆好きになってしまう舞台だと思います。

自分を受け入れ、相手を受け入れる。そうすることで自分と世界をもっと好きになれる。そんなポジティブなメッセージがまっすぐに伝わってくるのが「キンキーブーツ 」の大好きなところです。

*1:2019.4.20昼公演

*2:ドラァグレースは現在UK版が制作中?とのことです