THE LONG SEASON REVUE

監督:川村ケンスケ
ライジングサンから始まった、フィッシュマンズのリユニオンツアーを、長年フィッシュマンズの映像を撮り続けてきた川村ケンスケさんが撮影、編集したもの。ドキュメンタリーというよりは、ライブポートレイトに様々な断片を織り交ぜた映像作品という趣でした。その断片、の中にはちょっと、首をひねってしまうものもあったんだけど、ウィスット・ポンニミットのアニメーションは印象に残った。
まず「THE LONG SEASON REVUE」について。AXでのライブについては前にスペースシャワーで少し見たのだけど(id:ichinics:20060109:p1)、映画では名古屋にしか出演しなかったキセルの「バックビートにのっかって」を聞けたのが嬉しかった。
しかし、なんといっても、この映画の白眉はAXでの「LONGSEASON」をフルで見られるというところだと思う。欣ちゃんのドラムはまじで素晴らしいです。あの片手でのストロークバスドラムの刻み方は彼独特のビートで、しかも本当に気持ちよさそうに叩いている。
そして、あー、この曲は「SEASON」であり、旅でもあるんだなぁと思った。
* * *
でもやっぱり、一番目を奪われてしまう映像は、やはり佐藤君の映っているものなのだった。映画中に、「Magic Love」「Weather Report」「LONG SEASON」をそれぞれ、佐藤君と欣ちゃんと譲さんが、楽器音なしであわせる場面があるのだけど(それは動作だったり声で刻むビートだったり歌だったり)、三人の中に流れている音が、ぴったり重なっているのが、すごい。
そして佐藤君の笑顔。ああー、この人は本当に、音楽を全身で楽しんでいたのだなぁということが、鮮やかに伝わってくる。それがぜんぶだ、と思った。
公式サイト → http://pc.fishm.jp/

 執着したい

「THE LONG SEASON REVUE」の後に流れた映像を見て、直接は関係ないことなんだけど、いろいろ考えている。
例えば、好きなことや好きなものややりたいことやほしいもの、そういうのってガソリンみたいなものだなぁってのはよく思う。それがあるから、もうちょっと先まで、行ってみようかなと思える。そんな感じ。
別につまらないことや嫌いなものを否定するというのとは違って、だって、そういうのを克服するのが楽しい/充実していると思えるときもある。または、好きなものを獲得したい、という欲望のために、それを克服するための燃料を得ることもある。
でも、だからこそ私は満ち足りることが、ちょっと怖い。好きなものは、たくさんある。でも例えば、何もかも手放すこととひきかえにしてまで、欲しいものなんてあるだろうか。
例えばそれを獲得する、ということが、満ち足りるということじゃなくて、その渦中にあって、もっとこれを知りたいと思えるようなもの。そんなものに、執着できたらいいなぁ、と思うのだけど、執着することもまた、ちょっと怖かったりして。

いつもそばにいる幸せは/ある意味そんなもんで/ある意味ひとりぼっちなものなんだよ『ずっと前』

 どんがらがん/アヴラム・デイヴィッドスン

なんだか不思議な本だった。編者の殊能将之さんの解説にあった「変な小説」という表現がぴったり、だと思う。

この短編集は、後半少々前後するものの大まかには書かれた年代順に並んでいて、全体の流れが「だんだん変になっていく」というように並べられているような気がした。
「ゴーレム」から「クィーン・エステル、おうちはどこさ?」くらいまでは非常によくできた、精緻でスマートな短編小説という印象なのだけど「尾をつながれた王様」あたりからちょっと混沌としてきて、「ナポリ」あたりからはまさに奇想というか、文章自体が、かなり集中しないと読めない複雑なものだったと思う。
それでも、後半もまた苦労する甲斐はある、とても印象に残る本だった。
全部で16編の短編小説が収録されているのだけど、なんだかいろんな色がごちゃまぜになっている感じで、これを全て同じ人が書いているというのには驚かされる。ただ、全体的に結末で驚かせるというよりは、その描写、語り口で読ませるタイプなのかもなと思う作品が多かったです。
以下気に入ったのを少しメモ

「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」

ラストがかなりの衝撃、というかどんでん返しに思えたのだけど、冒頭を読み返したら、伏線ではなかったみたいなのでこれは著者(及び訳者)の意図したミスリードではないのかもしれない…。けどそこのとこ抜きにしても面白かった。

「ラホール駐屯地での出来事」/「眺めのいい静かな部屋」

この二編はどちらも戦争の思いでが鍵になっているのだけど、著者のキャラクター描写が際立っているという点でも近いものがあるように思った。

「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」/「ナポリ

その幻想的な情景描写にどことなくボルヘスを思いだす二編。特に「ナポリ」の饒舌さが好みでした。