「泣いたり笑ったりできなくしてやる!」- フルメタルジャケット

フルメタル・ジャケット [DVD]

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監督:スタンリー・キューブリック
ベトナム戦争を題材にした作品は数多くあるけれど、最も強烈な印象を残したのはこの作品だ、と、思う人は多いんじゃないだろうか。私もそう思ってた。けど、それはたぶん自分の感想ではなかった。久々に見てみたら、後半部分はほとんどはじめて見る映画みたいに感じて、あー、これは戦争映画だったのだな、と改めて思ったりしたからだ。まあ、実際に前半と後半で全く別の映画に見えるような作品で、後半を新鮮に感じたのは、前半が強烈すぎるせいもあるけれど。
たまってたIKKIで「ディエンビエンフー」読んだり、誰かのちょっとした引用が重なったりで最近、この映画を思い出すことが多かった。でも、そんなのはほんとうにごく一部で、最後にこの映画を見てから数年の間に見聞きしたものだけでも、その中のどれほどが、この作品の影響を受けてるんだかわからない。スタンダードになるとはそういうことなんだ、って思う。もちろん、ハートマン軍曹も大人気だけど、それだけでなく、これはやっぱり戦争の「感覚」を描いた映画としても、スタンダードであるよな、とりあえず私の中では…と思った。
ベトナム戦争を描いた作品に共通するのは、身体感覚と意志と倫理と、って、属性が統合され切り捨てられていくような「感覚」が、強調されている部分だと思う。それに抗って個を保とうとするか、それとも『論理的思考を卒業するか』。なんてイメージしてみると、感覚とは感情のことではないんだな、と思う。
自我(といわれてるようなもの)が私なのか、感覚が私なのか。それを対立させるなら、自我はフィードバックみたいなものなのか。泣いたり笑ったりできなくなるということは、泣いたり笑ったりすることの意味を忘れるってことなのかもしれない。

ほか感想

ディエンビエンフー」1巻/西島大介
http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20060726/p1
「僕が戦場で死んだら」/ディム・オブライエン
http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20050706/p3