「パラレル」/長嶋有

パラレル (文春文庫)

パラレル (文春文庫)

長嶋有さんの作品を読むのは、結構久しぶりで、あれ、こういう人だったかな、と、どこか違和感を感じつつ、戸惑いながら読んだ。
主人公と、離婚した妻と、その友人の「プレイボーイ」津田と、津田を取り巻く女性数人を中心に、複数の時間軸をパラレルに描く、というその方法は面白い。
ただ細かな言葉に、少しづつ躓いてしまう。主人公のおかれている境遇のせいもあるけれど、見るものに対する否定的な描写っていうのは、読んでいて疲れる。もちろん、それは物語の面白さとは別の話だし、意見のあわない主人公にだって感情移入できるところが、物語の面白さのひとつだと思う。
ただ、主人公や津田が、まともに向き合おうとしている相手をほとんどもたないように見えることが、どうしても気になった。

「俺はね、恋愛は駄目だよ。他人の気持ちが分からないんだ」と弱音をはいた。自嘲ではなくて言葉の通りだという。
「だって他人は俺じゃないから、分からない」女は、分からないことが分からないようなんだ。分かろうとしないだけでしょう、なんていうんだ。/p155-156

そして、この津田の台詞に、主人公は同意する。二人の意見はほとんどすれ違うことがないし、対立するものとしての「女」たちは、その内面を描かれることがほとんどない。名前がない。そこに居心地の悪さを感じてしまうのは、私が女だからなのかもしれませんが、やっぱりわたしにも「分からない」。
でもだからこそ、この「パラレル」という物語を通し、主人公と津田の関係だけが、際立って印象に残るのだろう。