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 「AKB商法とは何だったのか」

ニーツオルグ*1のさやわかさんの本だから、というのはもちろんあるんだけど、それだけでなく、AKBを好きになってから自分の中にあったもやもやを、違う視点で見てみたいなと思って読みました。
この本はAKB商法を批判/肯定するための本ではないし、AKBに限った話でもありません。でも「AKB商法」という言葉にひっかかりを感じている人には、ぜひ読んでみて欲しい本だとも思います。面白かった。

AKB商法とは何だったのか

AKB商法とは何だったのか

この本は、音楽チャートの変遷を切り口に「CDが売れる」とはどういうことなのかということを各年代におけるアイドルの歴史とともに解説しています。
個人的な話になるけれど、私は学生時代から7年近く、都内にあるCD屋で働いていました。店内にはオリコンチャートとビルボードチャートの棚を用意していたし、チャートが更新されるたびにその棚を並び替える作業もしていました。
オリコンチャートの上位には宇多田ヒカルモーニング娘。がいた頃です。
当時の自分は元ネタ探しから始まって60年代後半に活躍したミュージシャン*2を漁りつつ、フジロックサマソニなどの音楽フェスにも行くようになって段々とリアルタイムのバンドへと好みが移行していた時期でもありました。
オリコンチャート上位にある音楽も、もちろん店でよくかけていたしカラオケに行けば好んで歌うこともあったのですが、当時の自分は、ヒットソングは街で聴くもの、自分の好きな音楽はライブ会場や自分の部屋やヘッドフォンで聴くもの、と考えていた所があるように思います。CDを買う/買わないの基準はそこにあった。

だからこの本の冒頭で紹介されている2012年の「異常な」音楽チャート(1位〜5位までがAKB48、そこから30位までジャニーズと48GとエクザイルとMr.Childrenで占められている)を見て、まず私が感じたのは、自分が1位〜5位までのAKB48のシングルCDを自分も買っている、ということへの驚きというか、思えば遠くへきたもんだという感覚でした。
そして、自分がCD屋に勤めていた頃や今現在も好きでいる音楽と、AKB48のシングルとで、購入の動機は異なるのかどうか、と自問したときに、やはり「異なる」ということは認めなくてはいけないと思いました。どちらが正しいとか良いということじゃないんだけど、それが私のなかのもやもやの一端であることは確かでした。

その違いはどこにあるのかというと、まずこれまで聞いてきた音楽は、極端に言えば音楽を作っている人自体にはあまり興味をもたずに聞いてきたものでした。影響を受けた音楽云々というインタビュー記事は熟読しても、好きな食べ物は何かとかメンバーと仲が良いかとかそういうことは気にしていなかった。AKB48については逆で、単純にメンバーに興味があるからCDを買いはじめたのでした。もちろん曲も聴いてるけど、メンバーの名前や人となりを知ったり振り付きで歌っている姿を見たりすることがなければ興味を持たなかったとは思います。そもそもAKB48の場合、シングル曲のMVはyoutubeの公式チャンネル(https://www.youtube.com/user/AKB48)でほとんど見ることができるので、CDを買わなければ曲が聞けないということはほとんどないんですよね。
でもそういった「曲(だけ)が好きなわけではないファン」にもCDを買わせるための手段がアイドル界隈には多種多様に用意されている。例えば異なるMVの収録されたDVDや握手会やミニライブなどのイベントなどのおまけをCDにつけること。
さらにCDを買う動機にはファンの「応援したい」という気持ちも込められているのだと思います。AKB48のシングル選抜総選挙などは(是非はともかく)そのいい例です。

この本のp65にでてくる「アニメ番組の主題歌がいくらヒットしてもチャート番組でなきことのように扱われる、という被差別感がアニメファンのあいだにあって、で、2ちゃんねるで呼びかけて1位になれば放送せざるを得なくなるだろうと彼らは考えたんですね」という話がとてもわかりやすいんだけど、
もともと音楽チャートは、音楽的な優劣をつけるものではないのですが、でもその音楽チャートは世間的な露出の手段として、利用することはできるものとしてある。
だからいまや(特にアイドルのファンにとって)CDを買うという行為は応援する手段のひとつとして定着しつつあるんだと思います。
正直、応援する手段としての同じCDの大量購入っていうのはどうにかならないかねーとは正直思ってる。でも多くのファンがそうしてしまうだけの魅力について、考えるのも結構楽しいんですよね。

というわけで、この『AKB商法とは何だったのか』は、好きになってしまってからではなかなか客観的に考えにくかった「AKB商法」という言葉について、丁寧に解きほぐすように解説されていて、読んでいてたくさんの発見もありとても楽しかったです。ラストの問いかけ、届いてほしいなと思う。
何よりぐっときたのはあとがきです。このあとがきがあるからこそ作者を信頼できると思ったし、読んでよかったなと思いました。

余談ですが、この本が出たのは、2013年の選抜総選挙の少し前なんだけど*3おニャン子クラブの派生ユニット「ニャンギラス」についてのくだりとか、その直後の総選挙で1位をとった指原さんのことを彷彿とさせるところもあったりするのが面白い。「お互いに切磋琢磨する様子が魅力のAKBとおニャン子クラブはまったく異なる」とあってそれは確かにその通りなんだけど、必ずしも王道の子だけが人気を得るわけでもないというのはアイドルの面白いところだと思う。みんなちがってみんないい。

関連

AKB48シングル選抜総選挙についてはこっちにも書きました

*1:大好きだった/とくに引っ越しのはなし/ああいう文章書けたらなあって今も思ってる

*2:69年発売のアルバムコレクションしてたな/もうあんまり聴いてない

*3:投票券付きCDとして「さよならクロール」の名前は登場してるくらい