あいびき/勝田文

あいびき (クイーンズコミックス)

あいびき (クイーンズコミックス)

2004年に出た勝田文さんの短編集。最近再び勝田さんブームが巡ってきていて、まだ読んでなかったこの「あいびき」を買いました。
勝田文さんの作品は、例えば「しゃべれどもしゃべれども」など、原作つきのものを読んでも、独特のリズムがあって日向っぽい。語り口と絵柄がしっかりかみ合ってるような気がします。
前に岩本ナオさんのアシスタントをやっていたという話を教えてもらってから、そういえばちょっと雰囲気が似てるなと思ったりもしてて、だからというわけじゃないんだけど、岩本さんの漫画が好きな人には特におすすめしたいです。
この「あいびき」には銭湯を舞台にした表題作と、短編が4作収録されています。
特に好きだったのは最後に収録されている「妹の花火」。学生時代の恋の数年後のお話なんだけど、大人になっても素直になれない男の子と、成長したから言える、という女の子の場面になんかすごくにやにやしてしまう。どんなにドラマチックな場面でも、それぞれのキャラクターがちょっとづつかっこわるいのも好きだ。

 「ぐっと」の感じ

最近読み始めた本の冒頭に、「主人公は生まれてこの方知らずにいた「希望」というものに怯えていた」*1という一文があった。
何かに期待することで、それまで気づかなかった可能性を見てしまう、その瞬間を恐ろしいと感じる気持ちは、なんとなく自分にも想像できるような気がする。けれど、その可能性を見なければ、このお話は始まらないんだよなーってところに、なんだかぐっときて、まだほんの序盤なんだけど続きを読むのがとても楽しい。
期待と不安は表裏一体のものだけど、可能性に手をかけた時点で、その先はもしかしたら「ある」ものになるのかもしれない。叶うかどうかは別にして。

ところで、「ぐっときた」を、それ以外の言葉で説明したいのだけど思いつかないのが悔しい。
ほんとそのまんま、ぐっ、て感じで、感動ともちょっと違う、例えば本を読んでいて「この一文が読めて嬉しい」と思うときのようなあれ。友達に会って話するとしたら「ここの、この文がすごくよくてさー」などと勢いで言うのだろうけど、文章にするといつもためらうのは、言葉を出すまでの時間があることで、ひとつひとつの「ぐっと」にぴったりの言葉を選びたくなるからかもしれない。でもなかなか思いつかないからいつも「ぐっときた」って書いちゃうのが悔しい。
そういうところも、話し言葉と書き言葉は全然違うなと思うんだけど、使う言葉が何であれ、その中にある「感じ」が伝わった気がするととても嬉しいのは、きっとどちらも同じだろう。

*1:大意