動くな、死ね、甦れ!

ヴィターリー・カネフスキー 監督作品(1989年)asin:B00005HBIN
無実の罪で8年間刑務所で過ごした…という監督が53歳で撮ったデビュー作。
見たいなと思いつつ機会を逃していた作品でしたが、今回ユーロスペースの特集上映「LEAVING HOME」にで上映されると知って見に行ってきました。できれば13日の「浮き雲」も見たいけど、もしかしたらここのユーロスペースで映画を見るのは最後かもしれない。ここではほんといろんな映画を見てきたので、ちょっと寂しい。引っ越し先は円山町。1月中旬からの営業のようです。
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舞台は第二次世界大戦直後のロシア。日本人捕虜収容所がある貧しいの炭坑町に暮らす少年ワレルカが物語の主人公。
ワレルカは母親と二人バラックのような共同住宅に暮らしている。同じバラックの中には母親の愛人もいて、それもどうやら一人ではない。ワレルカは友人のガリーヤを真似て広場でお茶売りをして小遣いを稼ぐが、母親には叱られ、小遣いで買ったスケートも盗まれてしまう。そんなある日、鬱憤が溜まったワレルカは、ちょっとした悪戯のつもりで大惨事を引き起こし、町から逃げて行くことになる。
ワレルカが暮らす町の人々は貧しいながらも日々を精いっぱいに生きているように見えるが、そこには行き止まりのような息苦しさが常に充満している。ただ、ワレルカにとって救いとなるのは、常に彼を構い、味方をしてくれる少女ガリーヤの存在だ。彼女は彼をたしなめつつも、愛情のこもったまなざしで彼を守ってくれているのに、幼いワレルカは彼女を裏切るような悪戯をくり返すばかり。このあたりのやりとりは、微笑ましく、大人びた少女と子どもらしく気分で振る舞う少年の対比が町の男たち女たちの間とうまく重なっていた。
しかしワレルカが町を出て行く辺りから、物語の空気は変化していく。ワレルカもただの不良少年の枠を逸脱し、何度も逮捕され、脱獄をくり返すようになり、やがては強盗の一味となってしまう。
幼かったワレルカも、やがて大人になっていくのだか、その過程は決して美しいものではなく、むしろ絶望に近い状況の中にある。そしてラスト近く、ガリーヤと再会してからのワレルカは、明らかに昔の彼ではないのだけど、少しづつ、自身を取り戻していくかのように見えた後の、結末にはショックを受けた。
もっと歌って、と言った彼女の耳には、きっと永遠にあのいんちきのような、しかし淡い感情のこもった歌が鳴っているんだろう。歌というものは、こんなふうに行き詰まったところから生まれるのかもしれない、と思った。
希望と絶望の挟間にある、いくつかの眼が印象に残る映画だった。
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それから、このタイトルはほんとに素晴らしく格好良い。矛盾と葛藤の中にある、なにか堅いものというようなイメージの言葉は、映画の切実さを増しているようにすら感じる。