夢みる宝石/シオドア・スタージョン

スタージョンは読むたびにべた褒めしてる気がしますが、これもまた。すごく面白かった。まだ数冊しか読んでいないのに、これまで読んできたもの全てで、既にスタージョンは私にとって特別な作家になってしまった。

夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF)

夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF)

この「夢みる宝石」は久々に、それこそ寸暇を惜しんで読んだ作品だったのだけど、それでいて、物語の内容はといえば、人に説明しても首を傾げられてしまうだろう、不思議なものだった。でも読んでいるあいだは、すっかり理解している気分でいる。解説には「難解」と書かれていたけれど、これまで読んだスタージョン作品の中では一番読みやすいと思った。ファンタジーでもあり、SFでもあり、でもスタージョンの物語としかいえない手触りがある。それがとても心地よい。
「寸暇を惜しんで読んだ」と書いたけれど、その読み方は、例えば面白い推理小説を読む時のそれで、たぶんスタージョンの「仕掛け」に乗せられたからなのだと思う。そこにはずっと、隠された「何か」があって、それを知りたいという気持ちに動かされてページを捲る。それは一番最後まで読んでしまってから、もう一度読み返すことで、知ることができるかもしれない。だからここにあらすじを書くのはやめておく。
でも、ここにある最大の謎、つまり「水晶の見る夢」のこと、そしてその「夢」から生み出されたものについては、読者自身が想像することでしか、物語は動き出さないだろう。物語の最後に、主人公のホーティが自分の行動を選ぶときのように。
だから、この小説は、読む人によってその魅力がまったく異なるだろうなとも思う。

そこには人間性が暗示されていた。それとともに、すばらしい倫理である「生存」の基本原理が浮かびあがってきた。”至上命令は種族という観点であり、そのつぎに重要なのは集団の生存、最後が個体の生存である”、あらゆる善と悪、あらゆる道徳、あらゆる進歩はこの基本的な命令の序列によって左右される。p282

この箇所を額面どおりに読むと、物語の流れから離れてしまうように感じたのだけど、スタージョンのこれまで読んだ作品を思い返してみると、彼にとっての「種族」はカテゴリーなんじゃないかと思える。そして「集団」とは『人間以上』でも描かれていたけれど「理解しあえる個体同士」のことだと思う。そして個体。スタージョンの視線は、いつもその個体の抱える欠落に向けられている。
しかし、この物語の中心となる個体「ホーティ」は、その欠落を(ある意味で)思わないという点で健全であり、わくわくするような魅力を持っている。そして彼を描くスタージョンの「巧みさ」については、ちょっとぞっとするくらい、すばらしいと思う。