フィッシュストーリー/伊坂幸太郎

短・中編4作品をおさめた最新刊。
伊坂さんの作品を読んできた人なら、表紙を見てピンとくる系統の作品で過去の作品群ともリンクしている。サイドストーリー集といった印象でした。だから、もしもこれから伊坂幸太郎作品を読もうとしている人がいるならば、とりあえずこれを最初に読むのはもったいない。せめて「ラッシュライフ」は読んでからの方が楽しめる、と思います。

サクリファイス

地方の小さな村を舞台にしたミステリー。主人公は、あの黒澤です。方言の表記が独特で、巻末をみたら「別冊 東北学」が初出とのこと。おおー。この話にでてくる村長の陽一郎は、「魔王」のあの政治家に少し似ている。

フィッシュストーリー

『僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない』という昔の小説の一文を軸に、複数の時間が共鳴するお話。一本の連なりではなく、ある一瞬に重なりあう「時間」というものの捉え方がすきです。そして、「意味」というのはこのように、主体たちの与り知らぬところで生まれる物語のことだと思う。

ポテチ

ラッシュライフ』に登場した今村(タダシ)の物語。伊坂さんはほんとうに、魅力的な「人物」を描くのがうまいなぁと思います。個人的には、とにかくタイトルからして好きな作品です。「間食のない人生なんて/p227」という台詞に大きく頷く。
ところで、巻末に「ある場面についてはMO'SOME TONEBENDERの名曲(曲名を知っている方には、小説の展開を予測させてしまうかもしれませんので、曲名は伏せます)から触発されていることを、記しておきます」と書いてあった。でも私が聞いたことあるのの中にはピンとくるのないなぁと思って検索してみたら、こちら(http://d.hatena.ne.jp/./ascent027/20070210/p1)で紹介されてました。感謝。私も買ってきてかけながら再読してみたいと思います。

フィッシュストーリー

フィッシュストーリー

読み終えた後、なんとなく過去の作品群を見返してみると、伊坂さんは出版社ごとに色合いの異なる作品を描きわけてるのかもしれないなと思った(担当編集者の色もあるのかもしれない)。そして、この新潮社のシリーズ(ではないけど)が最も「伊坂幸太郎作品」のイメージ、なのだとは思う。
ただ、個人的には「魔王」「砂漠」「終末のフール」と続いたここ最近の勢いがとても印象深かっただけに、「陽気なギャングの日常と襲撃」とこの「フィッシュストーリー」にはいまひとつ乗り切れなかった。
どちらの作品も、もちろん楽しんだのだけど、ほんとうに、読者の勝手とごう慢を承知で言えば、今、伊坂幸太郎に期待してるのは、過去の作品を振り返ることではなくて、次の一手なんだ。